計画研究
シグナル伝達系は細胞の運命決定を担う最も重要な生命制御システムの一つであり、リン酸化やユビキチン化・アセチル化をはじめとするタンパク質翻訳後修飾による精細な制御に基づく複雑な相互作用ネットワークによって、転写・翻訳をはじめとする基本的な生命活動の駆動力として機能している。本研究課題では、細胞外部からの刺激入力や阻害剤による摂動によって変動するシグナル複合体やそれらのリン酸化、ユビキチン化、アセチル化等の翻訳後修飾レベルを網羅的・統合的に計測する高深度定量プロテオーム解析基盤を確立すると共に、得られる大規模な同定・定量情報に基づいて鍵となるシグナル制御を統計科学的に抽出する情報解析方法論を構築し、分子細胞生物学的手法による詳細な機能解析、並びに数理モデルによる精密な反応制御パラメータ解析と相互に連携するオミクス情報解析基盤の構築を行う。本年度は、ユビキチン鎖のトリプシン消化により生成するGly-Gly構造を特異的に認識する抗体を活用した微量ユビキチン化ペプチド精製法と高精度質量分析システムを組み合わせ、複数の培養細胞に関する大規模ユビキチン化プロテオーム解析を行った。取得した解析データを統合した結果、5,000箇所を超えるユビキチン化部位が同定され、興味深いことにその中で約700箇所の被修飾部位が新規であり、機能が報告されている部位は10箇所に満たなかった。さらにユビキチン化部位を規定するモチーフの特徴を統計科学的に解析するため、同定されたユビキチン化修飾リジン周辺のアミノ酸配列情報とヒトタンパク質配列データベースにおける当該残基周辺配列を照合したところ、グルタミン酸、アスパラギン酸が濃縮され、システイン、ヒスチジン、及びトリプトファンが枯渇していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質のユビキチン修飾系は、8種類の結合様式を基盤とする多様なポリユビキチン鎖構造を駆使して、タンパク質分解のみならずシグナル伝達や細胞周期など様々な生命現象の制御に深く関与することが明らかになってきている。近年のショットガンプロテオーム解析技術の進展に伴い、リン酸化プロテオーム情報は飛躍的に蓄積が進んでいるが、ユビキチン化に関しては技術的に立ち遅れているのが現状である。そこで本研究課題では、ユビキチン鎖からトリプシン消化により生成するGly-Gly構造を特異的に認識する抗体を活用した微量ユビキチン化ペプチド精製法と高精度質量分析システムを組み合わせ、複数の培養細胞に関する大規模ユビキチン化プロテオーム解析を実施した結果、5,000箇所を超えるユビキチン化部位が同定された。
複数の培養細胞に関する大規模ユビキチン化プロテオーム解析を実施し、取得した解析データを統合した結果、5,000箇所を超えるユビキチン化部位が同定された。興味深いことにその中で約700箇所の被修飾部位が新規であり、機能が報告されている部位は10箇所に満たなかった。また、同定されたユビキチン化修飾リジン周辺のアミノ酸配列情報とヒトタンパク質配列データベースにおける当該残基周辺配列を照合したところ、グルタミン酸、アスパラギン酸が濃縮され、システイン、ヒスチジン、及びトリプトファンが枯渇していることが明らかになった。今後、細胞ごとに特徴的に同定されたユビキチン化部位周辺の配列情報についてさらに詳細な情報解析を進めると共に、アセチル化に関しても同様に大規模プロテオーム解析を行う予定である。
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