計画研究
シグナル伝達系は細胞の運命決定を担う最も重要な生命制御システムの一つであり、リン酸化やユビキチン化・アセチル化をはじめとするタンパク質翻訳後修飾による精細な制御に基づく複雑な相互作用ネットワークによって、転写・翻訳をはじめとする基本的な生命活動の駆動力として機能している。本研究課題では、細胞外部からの刺激入力や阻害剤による摂動によって変動するシグナル複合体やそれらのリン酸化、ユビキチン化、アセチル化等の翻訳後修飾レベルを網羅的・統合的に計測する高深度定量プロテオーム解析基盤を確立すると共に、得られる大規模な同定・定量情報に基づいて鍵となるシグナル制御を統計科学的に抽出する情報解析方法論を構築し、分子細胞生物学的手法による詳細な機能解析、並びに数理モデルによる精密な反応制御パラメータ解析と相互に連携するオミクス情報解析基盤の構築を行う。本年度は、代表的な翻訳後修飾でありながらリン酸化と比較して包括的な解析が進んでいないユビキチン化及びアセチル化に注目し、複数の培養細胞における大規模プロテオーム解析を実施した。その結果、各々の解析で約5000種類のユビキチン化ペプチド及び約1600種類のアセチル化ペプチドを同定し、全体で900種類を超える新規修飾部位を検出することに成功した。大変興味深いことに、生命維持の根幹に関与するActin、Elongation factor、Histone等の因子を含む141種類のタンパク質に関しては、約240か所のリシン残基がユビキチン化及びアセチル化双方の修飾を受けていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質の翻訳後修飾は、プロテオームの多様性を飛躍的に高めることにより種々の重要な細胞システムの制御に深く関与することが知られている。近年、細胞内シグナル伝達において翻訳後修飾間での巧妙な相互クロストークを介した厳密な制御機構の存在が報告されていることから、複数の翻訳後修飾情報を多角的かつ統合的に取得することは当該システムの本質を理解する上で極めて重要であると考えられる。今回取得した翻訳後修飾プロテオーム情報を基に Canonical pathway解析を行った結果、ユビキチン化及びアセチル化ネットワーク双方においてEIF2 Signaling pathwayが統計科学的に有意に抽出された。一方、検出されたユビキチン化・アセチル化部位は細胞ごとに非常に多様性に富んでいることから、被修飾リシン残基周辺のアミノ酸配列情報をヒトタンパク質配列データベースにおける当該残基周辺配列と照合したところ、ユビキチン化及びアセチル化双方に関してそれぞれ特徴的な結合モチーフが抽出され、各々の細胞の性質を規定する制御機構の存在が示唆された。
本研究グループでは、これまでに SILAC(Stable Isotope Labeling by Amino acids in Cell culture)法に基づくin vivoタンパク質ラベリング技術、プロテオミクス解析を指向した微量被翻訳後修飾ペプチドの精製技術、並びに包括的なタンパク質同定を可能とするnanoLC-MS/MS測定技術を基盤とする高感度・高精度定量プロテオーム解析システムを既に確立している。今後、上皮成長因子をはじめとする外部刺激依存的な活性変動情報を包括的に取得し、Database for Annotation, Visualization and Integrated Discovery(DAVID)やIngenuity Pathway Analysis (IPA)による多角的なパスウェイ/ネットワーク解析により、重要なハブとして機能している被修飾部位を有するシグナル因子を統計科学的に同定すると共に、時間依存的な相対定量プロテオーム情報を基にシグナル制御機構に関する数理解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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