計画研究
細胞は環境の情報を集約し、遺伝子発現や代謝の活性化を介して、細胞の恒常性の維持と適応を行う。免疫システムにおいては、シグナル伝達、転写、翻訳、代謝の制御に細胞間の相互作用が中心的役割を果たし、高次のネットワークの秩序を保っている。本研究では、慢性炎症、免疫応答、免疫応答脱制御に関わる細胞や組織におけるトランスクリプトーム、エピゲノム、プロテオーム、メタボロームのトランスオミクス解析を行い、免疫細胞や周辺細胞の相互作用における代謝の役割を明らかにすることを目的とする。数理モデルを用いたオミクスデータの統合とシミュレーション解析を通じて、免疫トランスオミクスネットワークにおける代謝アダプテーションの制御機構の理解と疾患操作を目指す。代謝アダプテーション解析のため、モデルマウスや細胞モデルを用い、これらをトランスオミクス解析に供する。トランスクリプトーム、エピゲノム、プロテオーム、メタボロームの解析を行う。これらのオミクスデータから、疾患や細胞運命制御に関わる遺伝子の発現制御機構を予測する。また、メタボローム解析により、環境変化や遺伝子摂動によるシグナルと代謝物の動的な関係を定量的に明らかにする。トランスクリプトーム、エピゲノム、プロテオーム、メタボローム変化を直接的、間接的に統合することにより、疾患システムにおける入出力関係と疾患マーカーとなりうる遺伝子を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
これまで、アトピー性皮膚炎(AD)症状を示すモデルマウスを用い、炎症の悪性化の引き金となる責任遺伝子として、NF-kB転写因子を同定した。そこで、NF-kBによる定量的な転写制御機構を明らかにするために、トランスクリプトーム、エピゲノム、一細胞トランスクリプトーム、一細胞エピゲノムの統合オミクス解析を進めた。この情報学的解析により、NF-kBによる定量的な遺伝子発現制御が明らかになった。NF-kBによる転写制御は通常のエンハンサー(TE)とスーパーエンハンサー(SE)という2種類のエンハンサーを介して行われる。本研究の結果、B細胞における環境応答遺伝子の高発現制御には、長いDNAが必要であり、また抗原量に対する閾値応答には、エンハンサー領域におけるパイオニア因子PU.1とNF-kBの共在が必要であることが明らかになった。このことにより、長いDNAとPU.1を有するSEがなぜ標的遺伝子を特異的に強く発現するのかが明らかになった。またSEが遺伝子発現量のばらつきを生み出すことが示されたことから、SEがB細胞のダイバーシティに貢献することも明らかになった。本研究は論文として受理されつつある(Michida et al. Cell Reports ) 。さらに、トランスクリプトーム、エピゲノム、メタボロームの統合解析により、免疫不全を伴うヒト指定難病、22q11.2 欠失症候群に糖代謝制御異常が関与する可能性を世界ではじめて見出した (Imamoto et al. Life Science Alliance, 2020)。このほかに、乳がんの薬剤耐性における代謝アダプテーションに関する研究も進めている。
これまでの研究により、独自のオミクス統合解析法の構築、および、疾患への応用解析が可能になった。本年度は、さらに免疫や炎症に重要な役割を示すNF-kBの転写制御機構を明らかにするとともに、疾患への応用を図る。特に、エンハンサー制御の解析においては、遺伝子発現とエピゲノムの間に非線形な関係性があることがこれまでの研究により明らかにされたことから、数理モデルを用いた解析により、エピゲノムから遺伝子発現量を予測できる可能性がある。今後、さまざまな公共データを利用した解析も行い解析手法の汎用化を図る。また一細胞解析に関しても、現在よく使用されている一細胞解析手法の問題点を見極め、新たな統計解析手法の開発も行っていく。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Cell Reports
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FEBS Letter
doi: 10.1002/1873-3468.13757
Life Science Alliance
doi: 10.26508/lsa.201900635
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/cell_systems/index_ja.html