研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
17H06310
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石井 信 京都大学, 情報学研究科, 教授 (90294280)
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研究分担者 |
山崎 匡 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40392162)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 脳情報動態 / カルシウムイメージング / 機能モジュール / エンコーダ / デコーダ |
研究実績の概要 |
(A)神経画像処理の高度化 マウスのミクロコネクトミクスのため、電子顕微鏡画像処理のパイプライン化を、川口班員との連携の下で進め、パイプラインをソフトウェアとして公開するとともに、その成果を学術論文として発表した(Urakubo, et al., 2019)。また、神経の局所回路同定のため、光学顕微鏡からの画像リストア法の開発を進めた。従来の深層学習器によるものよりも性能が高いことが分かったので、その成果を学術論文として発表した(Lee et al., 2019: Ishii, et al., 2019)。 (B)エンコーダ・デコーダモデルの開発 動物の条件付け学習に関わる長時間の、中枢神経活動、行動の同時記録データに対し、中枢での動的内部表現を求めることのできるデコーディング手法の開発を、松崎班員との連携の下で実施した。また、脳情報動態解析の応用として、ヒトが不確実性を含む意思決定課題を遂行している際の脳機能イメージング(fMRI計測)を行った。当初の解析で興味深い結果が得られたものの、被験者数が足りないことが分かったので、計画変更を行った上で実験を延長実施した。追加された被験者データも含めて解析を行った結果、ヒトの不確実環境の予測およびその確信度が、fMRIレベルの解像度で解読できることを見出した。 (C)多階層・多領野モデリングおよびシミュレーション マウスの大脳基底核、特に、直接路と間接路の学習における機能の相違性に注目した計算モデルを開発した。このモデルを報酬と罰とが共存する環境における学習課題に適用したところ、従来の強化学習モデルよりも効率が良い学習が実現されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(A)「神経画像処理の高度化」、(B)「エンコーダ・デコーダモデルの開発」、(C)「多階層・多領野モデリングおよびシミュレーション」の3つの課題からなる。課題(A)については、これまでにその成果を3報の学術論文として発表することができ、「計画以上に進展している」と言える。課題(B)については、初期に見出した知見をより強固なものとするために、計画延長を行って実験を継続した結果、当初計画では予定していなかった結果、すなわち、被験者の内省的評価(確信度)がデコード性能に影響することが得られた。計画延長を行ったことを踏まえて「概ね順調に進展している」と評価した。課題(C)については、領域外での実験系研究者との共同研究の成果をベースに、新たに大脳基底核の多階層モデルを開発し、シミュレーションレベルで直接路と間接路の学習機能の相違を示唆することに成功した。これにより「おおむね順調に進展している」と評価した。3つの課題を総合して、一部計画変更はあったものの「おおむね順調に進展している」と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
課題(A)で得られた画像処理法により神経回路の構造を同定することができるため、今後課題(C)との融合で、構造情報を用いた機能シミュレーションに展開することができる。 課題(B)では、動物の条件付け学習に関わる長時間の、環境状態、中枢神経活動、行動の同時記録データに対し、中枢での動的内部表現を求める手法の開発を継続実施する。また、不確実環境において意思決定課題を遂行中のヒト核磁気共鳴画像からのブレインデコーディングを題材に、ヒトの階層的な意思決定過程、そこにメタ認知がいかに関わるのかにつき研究をさらに進め、学術的成果につなげる。また、視覚注意課題において刺激依存の処理と知識依存の処理がいかに並列処理されているのかに着目して、脳情報動態の基盤を明らかにするための研究を進める。さらに、松崎班員(A01 班)との連携により、機能イメージングデータから動的機能回路を抽出する手法(エンコーディングモデル)を、光遺伝学による介入実験の結果を説明できるものとするなど、新しい研究展開を進める。 課題(C)では、内部ダイナミクスを有する多階層モデルにより、学習効率の良い意思決定系が実現可能であるのか定量的に調べる予定である。
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