研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
17H06315
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 恒一 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (20514508)
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研究分担者 |
山川 宏 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 客員研究員 (00417495)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 脳情報動態 / 脳型人工知能 / 非同期並列計算 / 新皮質マスターアルゴリズム |
研究実績の概要 |
本研究では、脳の領野間結合様式及び空間的・時間的な階層性を持つ情報動態に学んだ非同期並列情報処理アーキテクチャの提案、実装、実証することを目的としている。今年度はその一環として、下記3項目について研究を進めた。(a) 脳情報動態に学んだ計算アーキテクチャの開発者が脳の高次機能の計算モデルを実装し評価するために必要な神経科学的知見の調査を行い、実装に必要な仕様を作成するための整理を行った。(b) 大脳新皮質を中心に既存の神経科学的知見の整理を進め、それらの知見を用いて具体的な計算モデルの実装と評価を行った。(c) 脳型人工知能が学習過程において必要とするデータを生成する枠組みとして、仮想3次元空間内で動作するロボット及びその入出力となるデータを獲得するためのシステムの構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は上記3項目についておおむね期待通りの進捗状況となっている。(a) において、認知機能の一つとしてのプランニングの工学的及び神経科学的モデルについて文献調査を行った。その結果として脳型AIにおけるプランニング機能を実現するために必要な工学及び神経科学における既存のプランニングモデルを提示できた。(b) において、まず大脳新皮質のマスターアルゴリズムフレームワーク (MAF) の完成度を高めるため、視床-皮質経路における2種類の経路 (Core/Matrix) についての特徴を整理し、領野間で交換される信号の意味づけを行った。次に多領野連携と並列処理におけるMAFの要件として時系列予測があるが、その既存モデルであるPredictive Codingにおいて高次の階層での予測の対象が下位の状態となっており、近年の神経科学実験の結果によって示された下位の予測誤差を予測の対象とする説明と反することが明らかとなっている。大脳新皮質の局所回路内部の神経科学的妥当性を高めるために樹状突起での情報処理を細胞体の情報処理として扱うDendritic BackpropagationモデルをMAFにおける時系列情報処理へ拡張する取り組みに着手した。更に、注意を活用した自然言語処理の仕組みを大脳基底核と視床の回路に対応付けることでその理解を深めた。(c) において、脳型人工知能の学習を支援するための3次元空間内を動作するロボットのモデルを開発した。本モデルは空間内を移動するための車輪と物体を操作するためのマニピュレータを備えており、環境とのインタラクションを通じた学習が可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては以下を中心にすすめる予定である。(1) 神経科学的知見を脳情報動態に学んだ計算アーキテクチャの開発者に円滑に伝達するための技術的整備を行う。具体的には脳型人工知能を記述するためにSemantic MediaWiki上で定義されているBrain Information Flow (BIF) 形式をより一般的に用いられているWeb Ontology Language (OWL) 形式に変換するソフトウェアを開発する。OWL形式に変換されたBIFデータをGraphVizを用いることでDOT言語に変換することでBIFデータの可視化を可能にする。加えてBIFデータの可用性について工学的観点から検討を行う。(2) Allen Instituteが公開しているマウスのコネクトームデータを用いて、脳型人工知能の開発仕様書に必要となる脳器官の結合関係情報の抽出を行う。その前段階としてデータ解析手法の策定と試作など技術開発を行い、その結果を受けて解析済みデータの作成を随時実施する。(3) プランニングなどの表象の操作が必要な高次認知機能では操作用の表象を保持する記憶領域を必要とする。これを受け脳型人工知能開発のために必要な作業記憶関連機能の神経科学的な機序の解明及びテスト方法の調査を行う。
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