計画研究
平成30年度は、白鳳丸、開洋丸、海鷹丸、しらせ、の4船が南大洋インド洋海域(東南極海域)を同時に広範囲で観測することとなった。白鳳丸では、ケープダンレー底層水の生成域と拡がっていく海域において、初めてフロンとSF6の同時計測を行った。これにより、底層水の平均年齢や起源となる水の混合比が同定でき、底層水の循環時間スケールや混合過程の定量化に大きく寄与する。さらに、海水年齢と溶存酸素量との関係から酸素消費速度が算出され、栄養塩循環の定量的理解が可能となる。白鳳丸航海では、高密度水が潜り込んで底層水を形成する峡谷に3系の係留系を設置した。回収されれば、底層水の流量や熱塩フラックスを見積もることが可能となる。酸素・pHセンサーや時系列採水器も付いており、底層水形成に関わる物質輸送過程とその季節変動の解明にもつながる。また、しらせにより、高密度水ができるポリニヤ(陸棚)域にも時系列採水器付の係留系を設置した。峡谷の係留系には、セジメントトラップもついており、これによる物質循環や海底への堆積過程に関わる情報と、同航海により係留点近傍の底層水の通り道で取得されたピストンコアデータから、過去の底層水の遍歴を解明することが可能となる。最新の研究から東南極最大の氷床量減少海域であることが示されたトッテン氷河域を新たに日本の集中観測海域と定め、その予備的観測を開始した。本年度は開洋丸によって、同海域の沖合で70点以上のCTD採水・XCTD観測が行われた。海鷹丸では、ビンセネス湾沖底層水の定量評価と南大洋子午面循環の構造を捉えるために、生態系班とも共同して、4系の係留系を設置した。また平成29年度に設置した係留系を回収し、その解析から子午面循環の一部と考えられる流れの構造を捉えることができた。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、白鳳丸、開洋丸、海鷹丸、しらせ、の4船による航海観測があり、観測の中心的な年度であったが、全ての航海観測は、係留系の設置を含め順調に進められた。順調に進んだのは、これらの航海観測のための準備期間として位置づけられた平成29年度によい準備ができたことにもよる。ただし、係留系に関しては、回収してかつデータが取得されて初めて成功といえるので、多くの係留系の回収が平成31年度以降であることを考えると、現段階で評価することは難しい。一方、トッテン氷河が東南極最大の氷河融解域であることが最新の研究でわかってきたため、開洋丸によるトッテン氷河海域の集中観測を新たに計画した。急遽計画されたにも関わらず、他国での観測を凌駕する多くの採水・CTD・XCTD観測が達成できたことは、予定を上回る成果と考える。
平成31年度は、白鳳丸、みらい、海鷹丸、しらせ、の4船が南大洋インド洋海域に結集し、東南極海域を広範囲、高精度で観測するという画期的な年度である。白鳳丸では大島、みらいでは勝又、海鷹丸では北出、しらせでは青木、と全ての航海で本班の班員が主席研究員を務めるので(青木は日本南極地域観測の総隊長)、相互に連携しあって観測を行う。4船同時観測により、複数の化学トレーサを最高精度で広範囲で観測したり、海氷が残る陸棚域と沖合を同時に観測するなど、今までにはない観測データの取得もめざす。最新の研究から、東南極最大の氷床量減少海域であることが示されたトッテン氷河海域を、新たに日本の集中観測海域と定めた。トッテン氷河海域での観測を強化するために、研究計画・経費・人員配置等の変更を行う。具体的には、平成31年度から田村岳史氏を探査班から底層水班へ配置換えし、そのもとで極地研へポストドクターを配置し、トッテン氷河海域の観測研究を集中して行う。平成31・32年度には、しらせによるトッテン海域での係留系観測を新たに追加し、その分に経費も割り当てる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件)
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