研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
17H06317
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大島 慶一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (30185251)
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研究分担者 |
中野 善之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 研究員 (20566103)
水田 元太 北海道大学, 地球環境科学研究院, 助教 (30301948)
北出 裕二郎 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50281001)
川合 美千代 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (50601382)
勝又 勝郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), グループリーダー代理 (80450774)
田村 岳史 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (40451413)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 南極底層水 / 気候変動 / 地球変動予測 / 海洋物理 / 海洋化学 / 物質循環 / 氷河 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、白鳳丸、みらい、海鷹丸、しらせ、の4船が南大洋インド洋海域(東南極海域)を同時に航海する観測強化シーズンとなった。4船の主席研究員が、すべて本課題の代表者・分担者であったことから、連携した観測を行うことができた。白鳳丸ではケープダンレー底層水の生成域及び西方域への広がりを、みらいでは底層水の低緯度方向への広がりをターゲットに、フロンとSF6の化学トレーサーや炭酸系・酸素同位体等の高精度観測を行った。これらにより、底層水の広がり・循環時間スケールや混合過程を定量化することが可能となる。さらに、海水年齢と溶存酸素量との関係から酸素消費速度が算出され、栄養塩循環の定量的理解が可能となる。白鳳丸航海では、高密度水が潜り込んで底層水を形成する峡谷に設置された3系の係留系の回収に成功し、底層水の流量や熱塩フラックス、底層水形成に関わる物質輸送過程とその季節変動の解明に資するデータを取得できた。また、海氷により白鳳丸が入って行けない陸棚域では、しらせにより係留系の回収を行った。峡谷の係留系には、時系列採水器やセジメントトラップもついており、これによる物質循環や海底への堆積過程に関わる情報と、同航海により係留点近傍の底層水の通り道で取得されたピストンコアデータから、過去の底層水の遍歴を解明することが可能となる(古海洋班との連携)。最新の研究から東南極最大の氷床量減少海域であることが示されたトッテン氷河域では、しらせにより、24点のAXCTD、41点のAXBT、27点のCTD、広範囲に及ぶ海底地形調査、4系の係留系の設置(うち2系は回収済み)等が行われた。この過去にない大規模な観測により、トッテン氷河に融解過程の理解が一気に深まることが期待される。海鷹丸では、ビンセネス湾沖底層水の定量評価と南大洋子午面循環の構造を捉えるために、生態系班とも共同して、3系の係留系の回収に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、平成30年度に引き続き、日本では初めての4船による南大洋での同時航海観測の年であり、南大洋キャンペーン年とも言える年度である。これら航海観測では、ケープダンレー底層水に関しては白鳳丸とみらいとしらせの3船が相補的に連携する形で観測が行われ、海鷹丸としらせもトッテン氷河域からビンセネス湾へと続く海域を相補う形で観測することができた。係留系に関しては、合計9系の回収に成功したが、ケープダンレー沖陸棚上の係留系1系とビンセネス湾沖の1系に関しては回収することができず、来年度の課題として残った。トッテン氷河沖に関しては、多数の広範囲に及ぶAXCTD、CTD観測ができ、係留系観測も2系の設置・回収に成功し、この海域の暖水流入域での貴重な連続データを取得できた一方、厚い海氷に阻まれ、砕氷船しらせをもっても侵入することができない海域もあり、来年度以降の課題として残った部分もある。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度と令和元年度の2年間にわたって取得された、4船による南大洋での同時航海観測により取得した高精度海洋データを、令和2年度は統合して解析を行う。ケープダンレー沖では、みらいと白鳳丸による複数の化学トレーサーデータを含む最高精度の海洋データと、令和元年度に回収した係留系データから、ここを起点とする南極底層水の広がり・深層循環・栄養塩循環への役割・氷河融解水との関係などを定量化することを重点的に行う。トッテン氷河沖に関しては、しらせと開洋丸、海鷹丸で取得されたデータを組み合わせて、氷河融解を及ぼす暖水流入の実態を把握する。主要な航海はすべて本班の班員が主席研究員を務めているので、データを共有して連携を強めて、同時観測の利点を最大限活かす。また、航海観測ではデータを得られる海域が限られるという問題に対しては、モデル班と連携するとともに、当班自らこれらの海域のモデル開発を行い、諸過程のメカニズムの理解をめざす。このためには、今まで雇用してきた観測・データ解析のためのPDの他にモデル開発のためのPDを雇用する。なお、当班の海洋物理系の全メンバーは過去に理論・モデル研究を行ってきた実績を持つので、モデル研究との親和性は高い。
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備考 |
【新聞掲載】大島慶一郎:「バイオロギング 海中水温・塩分 アザラシで」2020年3月8日 讀賣新聞(朝刊)
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