計画研究
珪藻殻の酸素同位体分析法の確立をめざし、海底堆積物から特定の形態をもつ珪藻殻を高純度で分離するための前処理法を検討した結果、従来の化学処理、比重分離、メッシュ分画による処理をした上でセルソーターを用いて珪藻と不純物(粘土鉱物等)を分離する一連の方法を確立した。この方法では、ダストや漂流岩屑が混在する氷期の南大洋の堆積物においても円盤型珪藻を95%以上の純度で濃集することができた。この手法を海底コアCOR-1bPCに応用した結果、過去4万年間の珪藻殻酸素同位体比の変化を復元することに成功し、今後の高解像度分析への土台を築いた。自動選別・集積システムを南大洋の海底コア(DCR-1PC)に応用し、過去10万年間の放散虫Cycladophora davisianaの相対産出頻度をほぼ自動で定量化することに成功した。この手法を他の海洋コアへも展開することで、南大洋の海底コアの年代モデル構築へ向けた道筋が開けるとともに、古海洋変動情報の迅速な抽出が期待される。南大洋の海底コアと南極アイスコアの古環境記録を直接対比させるためには両者の年代統合を図る必要がある。南大洋インド洋区の海底コアDCR-1PCを主な対象として、ダストプロキシである環境磁気パラメーターを用いた年代モデル構築を行った。また、このコアの珪藻群集解析に基づいて表層水温変動を復元し、氷期・間氷期スケールの表層水温の偏差が4-5℃に及ぶことを明らかにした。さらに、コンラッドライズのコアCOR-1GCの珪藻群集解析を高時間分解能(約60年)で行い、1万4000年前以降の表層水温の変動を解析した。その結果、完新世初期(1万1600年前から8700年前)は現代よりも1℃程度表層水温が安定的に高い状態が続くものの、それ以降は200年から260年の周期をもって表層水温が変動することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
南大洋における実用的な古海洋プロキシの開発と高精度化のために必須であった珪藻殻酸素同位体分析法の確立は概ね終了した。特に、海底堆積物から特定の形態の珪藻殻を高純度で分離濃縮する前処理法が確立したことは大きな進展であり、海洋コアへの応用も進めていることから、今後の解析の進展が期待される。また、自動選別・分離システムも海洋コアへの応用段階に入りデータ生産性が増大しつつある。既存の海底コアの各種プロキシ分析も概ね順調に進んでおり、珪藻群集による表層水温変動などについては論文1編が出版され、2編が投稿中である。また、2019年12月から翌年2月にかけて白鳳丸による2つの航海を実施し、底層水班、生態系班、探査班などと連携した観測を概ね計画通り行った。計12本の海底コアの採取とセジメントトラップ沈降粒子サンプルの回収に成功するとともに、表層海水などの系統的なサンプリングも実現したことから、当初計画していた研究試料・データの確保は成功裏に終わったことになる。
・上述のように、本プロジェクトの遂行の土台となる試料処理・分析システムはほぼ構築され、複数の航海によって新たな試料群の確保もほぼ完了したことから、今後はこれらの試料群を最大限に活用して、古海洋プロキシの高精度化と海底コアへの応用研究を進展させるフェーズに移行する。特に、現生試料(表面海水、海水濾過試料、表層堆積物など)と沈降粒子試料を用いて、珪藻や放散虫の酸素同位体分析、微化石群集解析、バイオマーカー分析等を進めることで、古海洋プロキシとしての有効性を改めて評価した上で海底コア解析を行い、より確度の高い南大洋の古環境データセットを構築していく。・新型コロナ禍で格段に利用しやすくなったオンライン会議システムを活用し、定期的に班会議や他班の関連研究者らとの打ち合わせを行うことで、情報共有と研究戦略のすりあわせを行い、多角的に南大洋の古海洋変動を復元していくことを推進する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 9件、 招待講演 3件) 産業財産権 (1件)
Marine Micropaleontology
巻: 157 ページ: 101861~101861
https://doi.org/10.1016/j.marmicro.2020.101861
GSJ地質ニュース
巻: 8 ページ: 125-127