計画研究
マイクロ・マニピュレーターとAI深層学習プログラムから成る自動分取システムを確立し、微化石画像の学習によるAIモデルの構築を進めた結果、放散虫群集組成の自動解析や微化石の高速自動摘出が可能となり(Itaki et al., 2020a)、南大洋の海底コアへの応用研究に発展し、過去9万年間の放散虫群集データを迅速に抽出することに成功した(Itaki et al., 2020b)。前年度までにほぼ確立した珪藻殻の酸素同位体分析のための試料前処理法、および、海底コアCOR-1bPCに応用して過去4万年間の珪藻殻酸素同位体比の変化を復元した成果を公表した(Ijiri et al., 2021)。また、南大洋のプランクトン試料を用いて現生珪藻殻の酸素同位体比を分析することに成功し、珪藻殻酸素同位体比が温度依存性をもつことが明らかとなったが、珪藻の殻形態によって関係式の傾きが異なることが判明した(投稿準備中)。海底コアCOR-1GCの珪藻群集解析に基づき1.4万年前以降の表層水温の変動を復元した(Orme et al., 2020)。南大洋ケルゲレン海台付近の複数の海底コアを用いて、珪藻および放散虫群集データから過去4万年間の表層水温および亜表層水温の復元を試みた。最終氷期の水温は完新世初期に比べて5-6℃低下していたが、2.4万年から4万年前においては表層水温が有意に高い傾向が明らかとなった。これは氷期にアガラスリターン海流の影響が強くなった結果であると推測される(Civel-Mazens et al., 2020)。また、過去2000年間の海氷分布と表面海水温の変動を詳細に復元した結果、南極海の海氷分布が熱帯域のエルニーニョ/南方振動(ENSO)や南半球における十年規模変動である南半球環状モード(SAM)と連動して変化していることが明らかとなった(Crosta et al., 2021)。
2: おおむね順調に進展している
南大洋における実用的な古海洋プロキシの開発と高精度化のために必須であった珪藻殻酸素同位体分析法と、堆積物粒子(特に微化石)の自動選別・分離システムが実用段階に入り、それらの複数の国際誌論文としてコミュニティに公表された。また、それぞれのメソッドは海底コアへ応用するステージに進展して、データ生産性の向上に大きく貢献している。2019年度末に実施された白鳳丸航海において採取した計12本の海底コアとセジメントトラップ沈降粒子の初期解析とサンプリングが進み、共同研究者による解析が行われている。2019年度後半に故障した質量分析計が復旧したため、海底コアDCR-2PCの浮遊性有孔虫と底生有孔虫の抽出と、それらの炭素・酸素同位体比の測定を継続し、コアの年代モデルの基礎データを蓄積した。
本プロジェクトの遂行の土台となる試料処理・分析システムはほぼ構築され、既存試料と新たに確保した各種の試料群を活用し、古海洋プロキシの高精度化と海底コアへの応用研究をさらに進展させる。特に、各海域の海底コア解析から復元される最終氷期やスーパー間氷期の古水温や古海洋データを広域的にコンパイルし、南大洋インド洋区から大西洋区における表層水温分布や極前線の位置の変化などを俯瞰的にとりまとめる。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 7件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 12件、 招待講演 1件)
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