計画研究
本年度は、多様な細胞で構成される組織の構築機構や恒常性の維持機構の分子基盤を解明するために、組織を対象としたdroplet-baseの1細胞RNA-seqの解析基盤の確立を目指した。その結果、1細胞レベルでの細胞間相互作用や細胞の階層性の可視化に成功した。1.)組織検体を用いた1細胞RNA-seqのための実験系の最適化:1細胞RNA-seq(scRNA-seq)で良好な結果を得るために、がん組織を対象に単細胞懸濁液の調製方法を検討し、細胞に対するダメージおよび不純物が少ない短時間で効率よく細胞を抽出することが可能な実験系を確立した。2.)がん検体を対象としたscRNA-seq解析:確立した細胞調製系を用いて、がん組織を対象にscRNA-seqを行った。その結果、同一の組織型と判定されるがんであっても、検体ごとにがん細胞と免疫細胞、線維芽細胞など微小環境を構成する細胞との比率が様々であることが明らかとなり、腫瘍間の多様性を定量的に評価することができた。さらに、がん細胞のみを再分類したところ、がんに浸潤した線維芽細胞と相互作用する細胞群や幹細胞マーカーの発現が亢進している細胞群など機能的な特徴を有すると考えられる細胞群を複数見出した。3.)膠芽腫幹細胞の階層的分化のscRNA-seq解析:がん幹細胞から生みだされる階層的な分化構造とその分子基盤を解明するために、検体から無血清培養により樹立した膠芽腫幹細胞の血清分化モデルを用いて経時的なscRNA-seqを行った。膠芽腫幹細胞には様々な分化度の細胞が混在しており、血清分化によりがん幹細胞特異的な細胞群が消失するとともに分化度が高い細胞群の増加と新たな細胞群が生じることが明らかとなった。さらに膠芽腫幹細胞に含まれる細胞について詳細に検討したところ、分化が神経系と間葉系の2方向に分岐していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Droplet-baseのscRNA-seq解析の運用を開始した。腫瘍間の多様性、腫瘍細胞の多様性を1細胞レベルで可視化し、予後予測に関連する可能性がある細胞群や幹細胞性が高い細胞群など機能的に特徴がある細胞群を同定できたこと、1細胞レベルでの時系列解析に目処がたったことから、Droplet-baseのscRNA-seq解析の解析基盤が整った、と判断した。
・がん検体を対象としたscRNA-seq解析本年度に分類した細胞群の機能についての解析を進め、予後の予測や治療戦略の策定を可能とする1細胞レベルでの遺伝子セットの抽出や細胞間相互作用を阻害するような新たな治療標的遺伝子の同定を目指す。・膠芽腫幹細胞の階層的分化のscRNA-seq解析膠芽腫幹細胞は血清分化によって造腫瘍能が消失することが明らかとなっている。本年度に同定した膠芽腫幹細胞に含まれる分化度が異なる細胞群の機能を解明し、さらには、その細胞間相互作用の生理的な意義を明らかにすることにより、がん幹細胞の幹細胞性、造腫瘍性の維持機構や組織構築の分子基盤の解明を目指す。また、膨大なデータ量となるscRNA-seqのデータについて、効率よく解析を進めるためにscNRA-seqに関係する解析ツールを精査して解析パイプラインを構築する。特に、droplet-baseのscRNA-seqの弱点を補完する技術であるimputationについて検討する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
Oncology Letters
巻: 15 ページ: 4005-4009
10.3892/ol.2018.7793
Oncotarget
巻: 9 ページ: 15266-15274
10.18632/oncotarget.24555
Oncology Reports
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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