研究領域 | 細胞社会ダイバーシティーの統合的解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
17H06327
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
藤田 直也 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター, 所長 (20280951)
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研究分担者 |
高木 聡 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 基礎研究部, 研究員 (20582240)
田崎 創平 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (50713020)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 癌 / 細胞・組織 / 遺伝子 / 臨床 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
肺がん・大腸がんの原発巣および転移巣の検体を収集し、腫瘍組織から延べ150株以上の培養細胞株の樹立に成功するとともに、免疫不全マウスに移植したゼノグラフト(PDX)モデルを複数樹立した。大腸がんでは、45歳以下の若年者の患者検体から新たなドライバーがん遺伝子陽性の細胞株を複数樹立することに成功して新規標的療法の探索へと展開している。EGFR変異陽性肺がんでは、EGFR阻害薬投薬前と耐性化して再発後の患者胸水を取得して1細胞発現解析と1細胞ATACシーケンスを実施し、治療前と治療薬耐性後の腫瘍細胞の遺伝子発現レベルとクロマチン状態の多様性を見出した。これら解析結果から、腫瘍細胞が治療薬抵抗性を獲得する際に発現変動する遺伝子群やパスウェイについての検討、さらにはがん進化の解析へと進めることができている。ALK融合遺伝子陽性肺がんにおいては、あらゆるALK阻害薬に耐性を示す重複変異にも効く治療薬候補を発見し、論文として発表するとともに、臨床試験に向けた検討と協議を開始した。また、ALK阻害薬耐性の肺がん細胞のふるまいを数理モデル化する取り組みも進めている。これまでに進めてきたがん免疫微小環境に関しての解析については、1細胞レベルでの解析技術が確立し、マウスの系での腫瘍内微小環境の解析が開始できた。このがん免疫微小環境のがん転移形成過程における変化を継時的に追うことで、血小板とがん細胞の相互作用が、がん細胞自身の性質変化を誘導するだけでなく、がん免疫微小環境をも変化させることで転移形成を促進していることを見出した。また細胞社会ダイバーシティーの解析に有用な細菌コロニーを対象として細胞状態の制御と細胞間の相互作用を数理モデル化し、バイオフィルムのライフサイクル生成機構を明らかにした。モデル系の構築と生成機構の数学的証明を2本の論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
臨床検体を用いた薬剤抵抗性・感受性の解析において、その解析基盤となる試料や解析データの収集が順調に進んでいる。特に肺がんにおいては、治療抵抗性に関わる種々の機構解明と治療抵抗性に関わる細胞多様性についての知見が集積されており、その結果として複数の論文を発表することができている。さらに、領域内異分野融合研究が進展し、薬剤耐性変異細胞が阻害剤存在下でどのように振る舞うのか、さらには耐性細胞の出現と競合について数理モデルからのアプローチができる状態になったため。また、承認済みのあらゆる分子標的薬に耐性を示す重複変異陽性肺がんに対して、血液がんで承認済みの薬剤が耐性克服に有効であることを見いだし、特許申請とともに論文発表を行った。また、ユニークな治療抵抗性形質を有するEGFR変異陽性肺がん患者の治療前胸水由来細胞を1細胞発現解析・1細胞ATACシーケンスすることで、治療薬暴露に伴う1細胞ごとの遺伝子発現とエピジェネティックな変化を解析できる基盤情報を得ることができている。さらに、同一患者のEGFR阻害薬耐性後の胸水検体を用いた1細胞発現解析とATACシーケンスも進めることができている。また、がん免疫治療薬への抵抗性を示す検体から、新たな分泌型PD-L1の存在や、他の耐性化メカニズムの同定に成功しており、論文化に向けて順調に進んでいる。また、がん微小環境における血小板の重要性についても新たな知見を得て論文投稿まで進んでいるため、当初の計画以上に進展していると判断している。 細胞社会ダイバーシティーの数理モデル化は、細胞レベル・組織レベルなど複数の階層をまたぐ数理モデリングが必要で、本質的に難しい問題を内包している。しかし細胞間相互作用をうまく利用する新しいアイデアにより、細胞・組織レベルを同時に記述するマルチレベルモデリング法を開発できたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、原発巣と転移巣におけるがん細胞-宿主細胞の相互作用にかかわる分子基盤の解析に加え、治療抵抗性を示した腫瘍組織をシングルセルレベルで解析することで、腫瘍組織内の細胞社会ダイバーシティーの理解と新治療法開発を進める。具体的には、 1)腫瘍組織のシングルセル解析、腫瘍内細胞外因子、液性因子の解析を、培養細胞を用いた共培養系、3次元培養系、臨床手術検体をマウスに移植して作製したPDXモデル、臨床検体由来細胞株をマウスに移植したモデル、マウスがん細胞株を同系マウスに移植したモデル等を用いて実施する。 2)マウスモデルにて血小板によるがん多様性促進機構を解析する。また、血小板を介した腫瘍内細胞ダイバーシティー創出の分子機構解析と領域内共同研究に資する基盤情報を収集する。 3)治療抵抗性を示すがん細胞が治療前から存在する場合と、治療薬暴露により出現する抵抗性を有する細胞が進化して耐性細胞が出現する場合とを比較するために、薬剤処理後に継時的にサンプリングして1細胞解析を実施する。治療残存細胞の経時的解析については、培養系とマウスゼノグラフトモデルの両方で実施し、治療抵抗性がん細胞が出現してくる際の多様性変化に関与する遺伝子群やパスウェイの同定を試みる。また、領域内異分野融合研究により、耐性獲得の数理モデル解析も実施する。 4)これまでに確立した、ヒト肺がん検体から免疫細胞を分離・分画・培養する手法を応用し、他がん腫や、マウスがん細胞モデルにて検討する。 5) これまでに構築してきた、細胞社会ダイバーシティーを記述するマルチレベル数理モデルの応用研究を実施する。重要な遺伝子群やパスウェイを数理モデルに取り込み、様々な培養系で細胞状態とその多様性変化を解明する。シミュレーションと数学的・統計的解析を組み合わせることで予測系の確立を目指す。
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