研究領域 | 細胞社会ダイバーシティーの統合的解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
17H06332
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中嶋 悠一朗 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (90782152)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞多様性 / 細胞分化 / 幹細胞 / 細胞可塑性 / 恒常性維持 |
研究実績の概要 |
生体中の臓器や組織という細胞社会において、様々な細胞タイプが適切な細胞数で存在する「細胞ダイバーシティー」の形成が、恒常性の維持や内外の摂動への対応に重要である。本研究計画は、幹細胞を起点とした細胞社会を形成するショウジョウバエ中腸をモデルとして用いて、細胞ダイバーシティー維持の制御機構および生理的意義の解明を目指すものである。また実験と理論の複合的なアプローチによって細胞ダイバーシティー維持の普遍原理を明らかにすることで、細胞ダイバーシティーの破綻や異常に起因する病態の理解につなげることを最終目標としている。 本年度は、「細胞ダイバーシティー変化における個々の細胞および細胞集団レベルのダイナミクスの解明」に取り組んだ。最初に細胞タイプを適切に標識できる遺伝子改変系統や抗体を準備し、それぞれの発現パターンの確認を行った。また様々な摂動を与えた後の腸管における組織レベルの応答や細胞タイプの変化を解析した。正常なショウジョウバエ中腸においては、組織恒常性を維持するために幹細胞を起点とした分裂と分化のバランスが成り立つ。一方、組織再生や腫瘍形成、感染、さらに老化に対する応答では腸幹細胞の増殖が促進され、栄養状態に応じても組織サイズを顕著に変化することも示唆されている。そこで老化個体における腸管の細胞タイプを生理的状況下で詳細に観察し、組織障害後の応答を若齢個体と老化個体で比較した。その結果、老化個体では組織再生に異常がみられ、個体の致死率が著しく上昇した。今後は他の摂動後の組織レベルや個体レベルの応答、そして細胞タイプの変化を定量的に解析することで、個体や組織レベルの応答に必要な細胞ダイバーシティー維持や変化の仕組みを明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画では、細胞ダイバーシティー変化における個々の細胞および細胞集団レベルのダイナミクスの解明を行うために、様々な摂動を与えた状態での細胞ダイバーシティーを観察した。老化個体における細胞タイプの変化や、組織障害に対する組織レベルや個体レベルでの応答の変化から、ライフコースや摂動に対する細胞ダイバーシティーの生理的な意義を明らかにすることができると考える。また腫瘍移植モデルにおいても、腸管での細胞非自律的なストレス応答を見出していることから、こうした他の摂動を与えた状態における腸管での細胞タイプの変化を比較解析することで、細胞ダイバーシティー維持や破綻の仕組みを調べることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
生理学的変化や病態での組織レベルの応答を規定する細胞集団レベルのダイナミクスは不明である。そこで、遺伝学的に細胞系譜を追跡することで系譜解析を行い、組織内での細胞種ごとの分布を時系列的に明らかにする。異なる摂動に対して、細胞クローンのサイズ、各細胞タイプの分布の経時的変化を定量し、正常状態と比較することで、組織レベルの応答における細胞集団レベルでの挙動が明らかになると考えている。 また細胞ダイバーシティーの維持および変化に伴う、各細胞タイプの遺伝子発現変化を明らかにするための準備を行う。各細胞タイプで発現するドライバー系統で蛍光タンパク質GFPを発現させ、ショウジョウバエ個体に摂動を与えた前後の細胞群を、セルソーターで分離・取得する予定である。
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