本研究課題では、哺乳動物の消化管組織を構成する細胞社会ダイバーシティーの制御機構の解明を目的とし、正常組織における細胞不均一性の維持機構と遺伝子変異に伴う変化を明らかにする。消化管組織は、陰窩底部に存在する幹細胞ニッチにおいて、消化管幹細胞の自己複製と細胞分化のプログラムが厳密に制御されている。幹細胞の維持に重要な役割を果たしているWntシグナルが、Apc遺伝子変異により亢進することにより、腺腫が発生し、さらにRas等の遺伝子変異が 追加される事により増悪する。昨年度までに、in vitroでの細胞不均一性解析を可能にするオルガノイドシステムを構築した。正常粘膜、Apc変異、KRas変異に加えApc/Kras二重変異をもつオルガノイドの遺伝子発現解析を行い、ドライバー変異に伴う、腫瘍組織を構成する細胞集団の変化を明らかにした。その結果、KRas変異は、分泌細胞形質をもつ細胞分化を誘導し、その結果、特定のケモカインやサイトカインの産生が亢進することが明らかになった。一細胞遺伝子発現解析によるクラスター解析では、多くの液性因子は、クラスター選択的に発現していた。さらに、Kras変異は、特定のケモカインを選択的に発現するクラスターを増増加させ、さらに、クラスター内の比較においても、ケモカイン発現が亢進していた。Kras発現により亢進するケモカインに誘引される免疫細胞を検索し、マウス消化管組織の蛍光免疫染色により、確認した。興味深いことに、同定された免疫細胞のケモカイン受容体を阻害すると、腫瘍数の減少が確認された。 これらの結果から、大腸がんのドライバー変異は、消化管組織の細胞ダイバーシティを変化させるのみでなく、微小環境にも影響すること、このがんの発生に伴うがん組織の変化が、治療標的となる可能性が示唆された。
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