研究領域 | 和解学の創成-正義ある和解を求めて |
研究課題/領域番号 |
17H06335
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
波多野 澄雄 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (00208521)
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研究分担者 |
佐藤 晋 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 教授 (30385968)
宮本 悟 聖学院大学, 政治経済学部, 教授 (70412137)
神田 豊隆 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (70609099)
半澤 朝彦 明治学院大学, 国際学部, 教授 (80360882)
クォン ヨンソク 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80361848)
川喜田 敦子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80396837)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 和解学 / 対日平和条約 / 戦争賠償 / 脱植民地化 / 脱帝国化 |
研究実績の概要 |
政治外交班の研究は、領域研究がめざす、東アジアにおける「和解学の創成」のための出発点と位置づけられる。2020年度は二つの目標を設定した。(1)サンフランシスコ講和条約を起点に、戦後日本とアジア諸国(中国、台湾、朝鮮半島、東南アジア諸国)との間に、国交正常化や賠償協定によって築かれた「政府間和解」(公的和解)の構造や特徴、意義と限界を解明すること。(2)日本の支配下にあったアジア諸国の「脱植民地化」あるいは「脱帝国化」(日本自身の植民地帝国から国民国家への変貌)のプロセスと政府間和解との関係を検証すること。 (1)については、外交記録の公開が進展したことから一定の成果を得ることができた。要約すれば、東南アジア諸国は、政府間和解は社会間の和解促進の契機となったのに対し、中国・韓国では社会レベルの十分な和解には結びつかなかった。代表者は「『和解』政策の射程と変容―戦後処理から戦後補償へ―」を執筆し、最終年度に向け議論の基礎を提供した。また、代表者は、日韓間のいわゆる「徴用国」問題について単著を刊行し、請求権という観点から問題の所在を明らかにした。 (2)に関する研究は、本班にとってより重要となっている。というのは、最近の徴用工や慰安婦問題に象徴されるように、90年代に登場した「戦後補償問題」は、講和体制というより、「植民地帝国」の支配様式に根ざす部分が大きいことが判明してきたからである。そもそも講和体制=政府間和解の枠組は、植民地帝国の清算を目的とするものではなかったため、戦後補償問題に直面したとき、その限界を露呈し、新たな和解枠組の構築が必要となっている、ということである。このような観点から代表者は「『政府間和解』の陥穽:サンフランシスコ講和体制における植民地主義の位相」を執筆し今後の議論を促した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、海外調査や国際会議等が不可能となり研究の停滞が危惧されたが、本班では、早めに必要な資料や情報の収集を終えていたこと、さらに内外のデジタル・データやデジタル・アーカイヴの積極的な活用や、頻繁なオンライン会合を通じた意見交換によって、班全体として研究が大きく停滞することはなかった。ただし、ヨーロッパで資料収集等を予定していた2名の研究分担者にとってはコロナ禍の影響は少なくなかったが、これまでも実績や既収拾資料を基礎に、より深い分析を行い得た。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2021年度は以下に留意しながらまとめを行う。 (1)東南アジアを含む東アジアの和解を考える場合、「政府間和解」は必ずしも社会・国民レベルの和解とは直結せず、社会の反発や国民感情を刺激して市民運動の契機となり、逆に市民団体、企業、国際組織の和解事業を促進する場合もある。こうした和解をめぐる複雑な様相にさらに着目する必要がある。こうした差異は何に由来するのか、民主化や経済発展、宗教等の要因分析が必要である。(2)韓国の民主化過程で浮上した慰安婦問題や徴用工問題は、人道・人権の問題として国際的な広がりをみせ、学術的には「移行期正義論」と密接な関連をもっている。国際的な和解論の広がりの中で、東アジアの脱植民地化・脱帝国化、そして「移行期正義論」など和解に関する理論研究にも幅を広げ、国民・市民レベルの和解に必要な条件を探る必要がある。権威主義体制のもとで封じ込められてきた被害者の真相究明や名誉回復をもとめる運動が「移行期正義」の問題として提起され、和解に新たな視点を求められている。この点に留意が必要である。 (3)東アジア諸国の「脱植民地化」および帝国日本の「脱帝国化」(植民地帝国から国民国家への変貌)のプロセスと「政府間和解」や歴史問題との関連を明らかにする。その際、国際比較の観点からは、ドイツ・ポーランド間の和解事例や、イギリス帝国の脱植民地化の事例が有用であり、またグローバル・ヒストリーの視点も国際和解に新たな着意をもたらすものとして期待される。(4)成果のとりまとめにあたって、他班の成果とのすり合わせが不可欠であり、その作業を通じて「東アジア発の和解学」の重層的基盤が形成されるであろう。
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