研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
17H06342
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
高橋 康介 中京大学, 心理学部, 准教授 (80606682)
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研究分担者 |
島田 将喜 帝京科学大学, 生命環境学部, 准教授 (10447922)
大石 高典 東京外国語大学, 現代アフリカ地域研究センター, 講師 (30528724)
錢 昆 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 助教 (60736354)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 顔 / 身体表現 / 文化 / 実験心理学 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
研究1の感情認識と研究2の感情表出について、表情判断のタブレット実験、表情表出の描画実験により順調に進展している。2017年度のフィールド実験として、タンザニア・カメルーン・タイ・フィンランドで単純顔の表情描画実験を実施した。2018年度のフィールド実験として、タンザニア・カメルーン・中国雲南・ケニアで表情判断実験および人物模写描画実験を実施した。日本国内にて、これらの実験結果との比較のためのコントロール実験を実施した。 人類学と実験心理学の越境的学際融合に関して、以下のような取り組みを行った。計画班人類心理会議をこれまでに6度開催し、フィールド実験の進め方や得られたデータの解釈、人類学と実験心理学の越境的学際融合の進め方についてなど密に議論を行っている。計画班A01-P01床呂氏や公募班A01-K102田氏なども参加し、領域全体に渡る人類学=実験心理学の研究連携のハブとして機能している。越境的学際融合のため2018年度文化人類学会分科会「文化人類学と異分野のコラボレーション―達成したこと・問題点・今後の課題」にてフィールド実験研究の取り組みや課題、学際融合の実情を紹介し議論を進めた。A01-P01床呂氏がコメンテーターとして参加した。計画班C01-P01と合同で第3回顔身体カフェ「顔を描く・顔を描かれる・顔を知る」を開催した。顔を「描く」ことによる内面の表出についての調査を行い、実験計画(自画像描画)の立案につながっている。 我々が当たり前のように顔として認識し、顔として扱っているものが、他の地域や文化の人たちにとってはそう見えていないのかもしれないという可能性を複数の研究結果が示している。トランスカルチャー状況における「顔」とは何かについてもう一度考え直すこと、そして安易な先入観や思い込みを排除して丁寧に調査することが、我々には必要であろうという結論に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フィールド実験を通じた成果は以下の通りである。単純顔の表情描画実験の結果は顔の単純化表現、顔認識の枠組み構造の多様性が示唆される結果となった。単純顔の表情判断実験では、タンザニアやカメルーンで収集した笑顔については、日本よりも当該地域の人々の方が「笑顔」と判断する割合が高かった。我々にはすぐには検出できないような「その地域の笑顔の特徴」を捉えているのかもしれないが、判断バイアスなのか表情判断の精度が高いのか、更なる検証を要する。人物模写描画実験では、単純顔ではなく顔写真を模写する課題を実施した。フィールド実験における語りの人類学的研究として、フィールド実験の過程で、インフォーマントとの対話の中から興味深い仮説が得られている。顔の抽象化や顔認識の枠組みの様式には、我々が思っているよりも多様性があるのかもしれない。現在この仮説の検証実験を準備中である。このように顔研究について事前の計画を遥かに超える興味深い知見が集められている。 そして本計画班のもうひとつの目的でもある異分野融合―心理学と人類学のコンパクトな学際研究―については、単に融合して進めるというだけでなく、具体的にどのようなアウトプットが可能なのか、研究スタイルの違いをどのようにフィットさせればいいのか、これら様々な問題に対して議論のフェイズを抜け実践を重ねる段階まで至っており、人類学と実験科学の融合という新領域創成にひとつの道筋が見えつつある。 以上のことを総合的に考えると、当初の計画以上に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に大きな変更はないが、これまでのフィールド実験で得られた研究成果をもとに、方向性の修正を柔軟に行っている。第一に、これまでの研究経過でも述べたように「感情」の表出と認識から出発し、「顔」とは何かという問いに直面することとなった。この問いに正面から取り組むために、描画実験を改善し、顔研究のウェイトを上げて、身体(ジェスチャ)研究のウェイトをやや落としている。 研究手法として、当初は各地域・環境・文化の人類学的背景の上で、フィールド実験データに対する定量的検証を行い、解釈することをアウトプットとして想定していた。この方向性にはかわりはないが、人類学と実験心理学の境界を超えたフィールド実験研究のダイナミックなプロセス、特に人類学者が実験を行う際のインフォーマントとの「対話」の中に、報告すべき重要な知見が溢れているということがさらに明確になった。このため、実験データの定量的検証に加え、(実験心理学分野では通常は無視する)実験時の語りの解析にもより注力していくこととした。したがって、今後の研究ではフィールド実験の結果としての定量的データだけでなく、フィールド実験の過程で生み出される語りのような質的(場合によっては量的)データについても、それ自体を研究成果として論文化を進めていく。
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