研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
17H06345
|
研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
田中 章浩 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80396530)
|
研究分担者 |
板口 典弘 静岡大学, 情報学部, 助教 (50706637)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 顔 / 身体表現 / 感覚間統合 / 文化間比較 / 感情知覚 / 顔身体学 / 視聴覚感情知覚 |
研究実績の概要 |
多様な文化的背景をもつ人々のグローバルな交流がますます加速する現代社会において、円滑なコミュニケーションを実現するためには、自身の感情の表出、 そして他者の感情の知覚を媒介する顔と身体表現の普遍性と文化特異性を知ることが不可欠である。感情の知覚には顔や身体表現(視覚情報)のみならず、声(聴覚情報)も利用され、感覚間統合が本質的な役割を果たしている。申請者らのこれまでの研究の結果、他者の感情を知覚するとき、欧米人は顔への依存性が高いのに対し、日本人は声への依存性が高いことがわかっている。本計画班では顔・身体・声の認識様式の文化的多様性の根源として、感覚間統合を含む「情報統合」に着目する。そして、幼児期から成人にかけて感情知覚における複数情報統合の様式がどのように変化するのかを比較文化的に検討し、これらの知見を統一的に説明する理論的枠組みの提唱をめざす。2019年度は以下の通り研究が進展した。 ①視聴覚との比較対象として、触覚の研究に着手した。タッチでは音声と同程度正確に感情が伝わること、また音声にタッチが上乗せされることでポジティブ感情の知覚が促進されることが明らかになった。 ②身体ポーズと声色による感情表出に対して、子ども(5~12歳)は一貫して声色を重視して感情を読み取ることが示された。 ③欧米圏から日本への移住者による視聴覚感情知覚とその際の脳活動をfMRIで測定した結果、移住者と日本人では行動レベルでは共通性が見られる一方で、脳活動レベルでは違いがみられる可能性が示唆された。 ④感情を表す音声と表情の物理的な特徴の文化差を検討したところ、欧米人は日本人よりも声のピッチ変動が大きく、表情においても複数の顔面筋が同時に動く傾向にあることから、日本人の感情表出は欧米人と比較して曖昧さが高い可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、顔と身体を独立した存在ではなく、人間が発信する多感覚情報の一部と位置付けて、感覚間統合の視点から「顔・身体学」の学術領域に寄与する ため、日蘭の国際共同研究体制のもと(互いに言語が理解できない国同士での研究計画である)、顔・身体・声からの感情知覚の文化差とその形成過程について 検討している。実験では、感情の判断や評定などの行動指標を用いた顕在処理過程の検討と、視線計測や生理計測を用いた潜在処理過程の検討を併用している。 潜在処理過程の検討を効率的に推進するため、視線計測装置のライセンスを追加購入した。実験にあたっては研究補助員を複数雇用し、効率的に推進している。 これまで大きな問題なく、順調に研究は進んでいる。顔と身体のうち、当初計画では顔の研究に比重を置いていたが、身体についての研究計画を新たに追加 し、下記2項目について検討を進め、身体の視点からトランスカルチャーを捉えるための実験手法を確立し、研究を進めている。 第1に、自己主体感である。「これは私の行為である」という感覚(自己主体感)に着目し、キー押しという行為と、少し遅れて音が鳴るという結果に対して生 じるIntentional Bindingを指標として検討した。さらに自己主体感の文化差について日蘭比較実験を実施した結果、日蘭でパターンに違いが見られた。2019年度はこの点に関する追加実験が順調に進展した。 第2に、触覚からの感情知覚である。2019年度は他の感覚との比較及び相互作用の観点から研究が進展した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで当初から予定していた項目に加え、新たに追加した項目(触覚、身体)についても研究が順調に進展している。今後もこれらの項目について研究を進めていく。
|