研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
17H06346
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
河野 哲也 立教大学, 文学部, 教授 (60384715)
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研究分担者 |
小手川 正二郎 國學院大學, 文学部, 准教授 (30728142)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 比較現象学 / 顔身体学 / トランスカルチャー / 身体性認知 / 技能の現象学 / 人種の現象学 / ジェンダーの現象学 / 顔身体カフェ |
研究実績の概要 |
本研究の2年目として、領域全体と連携しつつ予定通りに以下の4つの研究事業を行った。 1)顔身体学の現象学的理論化: 「顔身体学」の理論的な基盤を現象学的に整理し体系化する作業を行った。成果は、2度の領域会議、心理学班・文化人類学班と共同のワークショップ、3月の自主シンポジウムで発表した。当初の計画通りに、「顔身体学ハンドブック(仮)」という事典を出版社(東大出版会)に提案し出版が決定した。 2)比較現象学という方法論の確立: 国内外から講演者を招集し、顔身体運動の文化社会的な側面に関して共同研究発表と情報交換を行った。8月下旬の東華師範大学(上海)では、S.Gallagher(米)、J-M. Roy(仏), Jing Heら上海・台湾グループと身体性認知のワークショップを行い、11月には、Gallagherを招聘して「匿名の視線と自己の成立」と題した自主シンポジウム、同11月の日本現象学会大会では、Gallagher、D. Huttoなどと米・豪の研究チームと共同してシンポジウム「技能の現象学」を実施した。 3)人種とジェンダーの比較現象学の構築: A. Al-SajiとH.Ngo を招致して、8月に世界哲学大会内の国際ワークショップ「文化横断的な人種の現象学」および立教大学での連続ワークショップを実施し、人種化された顔身体の知覚と文化・社会的制度・宗教の関連の分析を試みた。3月に国際シンポジウム「トランスカルチャーとは何か」を開催し、現代哲学や人類学の動向も視野に入れてトランスカルチャーの再定義を試み、その背景や文化概念を明確化した。さらに、トランスジェンダーの顔身体表現、性自認と自己の身体認知の変容の関係を検討し、比較現象学の一般理論を具体的な事象のもとで検証した。 4)顔身体カフェの実施: アウトリーチ活動として顔身体カフェを、心理学班と共同し東京と福島で実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・「顔身体ハンドブック(仮)」は、数多くの執筆者を必要とする、新領域への挑戦的な企画であるにもかかわらず、想定以上に順調に編集方針と執筆者への呼びかけが成功し、次年度で完成させるめどが付いた。 ・比較現象学とトランスカルチャー概念の哲学的な基礎付けも、いくつかの共同ワークショップやシンポジウムが成功して、非常に順調に研究が進んでいる。 ・比較現象学の国際研究の推進も、国内外での共同発表の機会を通じて、強い共同関係を構築しつつあり、予想以上に軌道に乗っている。また、それぞれのシンポジウムやワークショップは、国内外で盛況であり、高い評価を得た。 ・領域内の他の班(心理学・文化人類学)との領域会議や共同研究も順調であり、非常に強い連携ができつつある。 ・顔身体カフェは毎回参加者のアンケートで好評を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
以上のようなH30年度の成功をもとに、本研究の3年目として、また中間評価の年度として、領域全体と連携しつつ、以下の4つの研究・事業を引き続き行っていく。 1)顔身体学の現象学的理論化: 新学術領域「顔身体学」の理論的な基盤を、現象学的に整理しながら、領域の各分野を位置付けて体系化する作業を行う。事典的な共著として『顔身体ハンドブック(仮)』(東大出版会)の編集を河野と小手川が共同で行い、31年度、ないし来年度初頭での出版を目指す。 2)身体の比較現象学の確立: 現象学と心理学、認知科学を統合しながら、顔身体観について比較現象学を確立していく。2つの大きなシンポジウムを行う。一つは、8月末に、ラディカル身体性認知科学の立場をとるT.Chemero氏(米)、身体性認知科学のJ-M. Roy氏(仏)、同じく身体性認知科学のJ.He氏を中心とした上海のメンバーと、前年度に引き続き自主シンポジウム・ワークショップを行い、多文化的な観点からの身体と認知の関係について考察する機会を作る。二つ目は、顔と身体の神経生理学を専門とするJ.Cole氏を9月に英国から招聘し、心理学・神経生理学系の学会(日本心理学会、日本顔学会)でシンポジウムを開催する。病理学的な立場から人間実存にとっての顔身体による表現の意味を多角的に論じる。 3)身体表現の制度化の比較現象学: 小手川が中心となり、身体の可視性・可塑性・所有感/非所有感の現象学の研究の継続・発展として、顔身体表現の比較現象学を探求する。3月に領域内の文化人類学班と共同した自主シンポジウムを開催する。 4)顔身体カフェの実施: 河野が「顔身体カフェ」を開催し、市民と研究者がフラットな関係で議論できる場を2~3回程度設ける。
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