研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
17H06346
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
河野 哲也 立教大学, 文学部, 教授 (60384715)
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研究分担者 |
小手川 正二郎 國學院大學, 文学部, 准教授 (30728142)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 比較現象学 / 顔身体学 / トランスカルチャー / 身体性認知 / ミックスレイス / 文化的身体性 / デジタル人文学 / 顔身体カフェ |
研究実績の概要 |
新型コロナウィルス感染拡大に伴って多くの国内国際学会が中止延期され、調査や実践研究についても当初の計画を大幅に変更せざるを得ない事態が生じた。そこで、研究調査とその発表をオンライン中心に切り替え、可能な範囲で最大限の研究進展に取り組んだ。 1)顔身体学の現象学的理論化: 『顔身体学ハンドブック』(東大出版会)を21年3月に出版し、領域に理論的基礎と体系性を与えた。比較現象学的視点から、河野がアフリカの身体性概念を西洋のそれと比較する研究を行った。 2)顔身体学国際誌の発刊の準備: 『文化的身体性』"Cultural Embodiment"という領域の総括班と各国の協力者を編集査読委員に据えた英文雑誌を企画し、創刊号の原稿を集めて編集が終了した。21年前期にオンライン公開する。 3)顔身体運動のビデオ映像分析・評価方法の展開: ビデオ録画された顔身体の運動やパフォーマンスをアーカイブ化し、デジタル人文学的な分析を日本心理学会と公開シンポジウムでオンラインで発表した。 4)身体表現の制度化の比較現象学: 20年8月に哲学、社会学、批判的人種理論、心理学を専門とする、台湾、フランス、アメリカ、日本の研究者を招いた国際シンポジウム「ミックスレイスの顔身体表象」をオンライン上で開催した。人種の経験のされ方や人種と容姿や化粧との関連についても研究を進め、日本顔学会が主催する顔学オンラインサロンで報告し、上記ハンドブックでその成果を発表した。 21年3月には関本幸、クリストファー・ブラウン著『Race and the Senses』(2020)合評会をオンラインで開催し、社会的構築物としての人種経験の現象学的分析について議論した。 5)顔身体カフェの実施: 領域全体のアウトリーチ活動として、韓亜由美氏と共同し、第7回「顔身体カフェ:このまちでインクルーシブに出会う」を11月7日に芝浦で開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
領域全体を総括し、理論化・体系化した『顔身体ハンドブック』を出版でき、英文誌『文化的身体性』のオンライン発行の準備をほぼ終えることができた。オンラインとなった学会や研究会、領域会議で、着実に研究発表を行うことができた。領域・計画班主催のシンポジウムも多くの参加者を呼ぶことができ、大きな成功を収めた。他方、コロナ禍によって、3)のデジタル人文学的なビデオ分析のための調査に赴くことが大幅に制限され、情報とデータ収集に困難をきたした。そのため、過去のデータ分析を充実させた。顔身体カフェは2回を予定しており、前期中の企画は中止になったが、後期11月には三密を避けた会場で実施することができ、好評を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度として、領域全体と連携しつつ、以下の5つの研究・事業を行っていく。シンポジウムや研究会などを対面にするかオンラインにするかについてはコロナ禍の状況によって柔軟に対応する。 1)顔身体学の現象学的理論化: 新学術領域「顔身体学」の理論的基盤の整理と領域各分野を体系化する作業を行い、国内外学会や領域会議などで成果発表する。また、引き続き顔身体の研究をめぐる倫理ガイドラインの作成も、事例を収集しながら推進する。オンライン下での身体性についての共著を領域で企画している。 2)顔身体学国際誌の発刊の準備: 学際的な国際誌『Cultural Embodiment』の創刊号を夏までに発刊し、さらに第1号の公募を行う。第1号の特集「メディア」に関連した研究者を招聘して夏までに研究会を行う。 3)顔身体パフォーマンスのビデオ映像分析・評価方法の展開: ビデオ録画された顔身体パフォーマンス(対話、スポーツ、芸術)をアーカイブ化し、これまでに開発した共有コミュニケーションで相互的・遠隔的に評価する映像分析・評価方法を発展させ、顔身体学の方法論として提示する。そのために使用してきたアプリケーションの改良更新を行い、成果については国内学会及び領域会議で発表する。 4)身体表現の制度化の比較現象学: 顔身体の現象学、とりわけ性差の現象学と人種の現象学に関する研究の取りまとめを行う。前者に関しては2020年に出版された共著『フェミニスト現象学入門』の読書会を月1回のペースでオンラインで開催する。後者については、2021年度中に人種の現象学をめぐる国際的なワークショップをオンラインで開催する。 5)顔身体カフェの実施: 領域全体のアウトリーチ活動として、主に河野が「顔身体カフェ」をオンラインを含め2回程度開催し、領域の研究成果を披露すると同時に、市民と研究者がフラットな関係で議論する場を設ける。
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