計画研究
本年度では、タンパク質中のリジン残基と可逆的に反応する新しいコバレントドラッグの開発を進めた。本研究では、ベータ位にフッ素を導入したビニルスルフォン(FVS)に着目して、様々な構造を有する反応基を合成し、それらのリジンならびにシステインに対する反応性について検討を行った。その結果、多くのビニルスルフォンはリジンと良好な反応性を示し、反応後に加水分解に伴って反応したリジンが脱離する可逆反応性を示す事を明らかとした。また、ビニルスルフォンのベータ位に導入したフッ素基は求電子性を向上させる効果を有し、これによりベータ位に芳香環や嵩高いアルキル基を導入した場合でも十分な反応性を維持できる事が判明した。このような特性は、FVSの反応性チューニングに有利な点として特徴づけられる。一方で、FVSはシステイン残基とも反応し、リジンに対する反応性との差はあまり大きくない事が分かった。また、システインとの反応による生じるビニルスルフィドは可逆性を持たず安定な付加体であった。以上のようにシステイン/リジン選択性、システインとの不可逆反応性の改善を目指した検討が今後に重要であると考えている。タンパク質を部位特異的に切断可能なコバレント阻害剤開発のテーマについては、システイン残基のホルミル基がアミド主鎖の切断に有用である知見をつかんでいる。本年度は、このホルミル化分子の構造展開を行い、水中での安定性やシステインとの反応性に関する検討を行った。その結果、ホルミル化分子中のホルミル基が導入されたアミドやスルフォンアミドのpKaの低さに依存して水中安定性や反応性や高くなる知見を掴んだ。また、水中安定性や反応性はホルミル化分子の立体障害の大きさにも依存する事を明らかに出来た。これらの結果は、今後の標的選択的なタンパク質切断を可能とするホルミル化分子プローブのデザインに有用な知見である。
2: おおむね順調に進展している
現在進行中の二つの主要テーマについてそれぞれ新しい知見が得られており、本研究は概ね順調に進展していると判断できる。
現在進行中の二つの主要テーマについて研究を進め、タンパク質を用いた応用を検討する予定である。
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