我々はこれまでに、植物ホルモン「オーキシン」について、bump-hole ペアを作成している。本年度は、bump-hole法を他の植物ホルモンへ適用し、より広範な植物ホルモンの生理機能を器官レベルで制御する手法を開発した。 1.サイトカイニンは、オーキシンと並んで植物の成長を制御する重要な植物ホルモンである。特に茎頂や根端の分裂組織の形成と維持に関わることが知られている。農業利用としては、温州みかんやリンゴの側芽の生長促進に用いられる。また、サイトカイニンは、カルス化やカルスからの再分化を誘導する際にも用いられる。 サイトカイニンの受容体はキナーゼ活性をもつ膜タンパク質で、シロイヌナズナで3種類のホモログが見つかっている。このうちAHK4について、サイトカイニンとの複合体の結晶構造解析が為されている。本研究では、この構造を元に新たなリガンド-受容体ペアを設計した。合成した人工サイトカイニンが、改変受容体を発現するカルスを選択的に植物体へ再生したことから、この人工ペアが機能することが示された。 2. ジベレリンは、発芽や伸長成長の促進に関わる植物ホルモンで、農業利用としては種無しブドウの生産によく用いられる。さらに、ジベレリンの生合成量や感受性は植物の背丈と強く関連しており、これらの性質を変化させることで草丈が低く倒伏し難くした品種の開発は、「緑の革命」と呼ばれ、穀物生産高を大きく向上させた。 ジベレリン受容体GID1 は2005年に発見され、2008年には複合体の結晶構造解析が日本の2つのグループによって同時に報告された。この構造をもとに、新たなリガンド-受容体ペアを設計した。合成した人工ジベレリンは、改変型受容体を発現するシロイヌナズナにおいてのみ伸長効果を示した。将来的には、この改変受容体を花房で発現させることで、手間のかかる現在のジベレリン処理を効率化できると期待される。
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