研究実績の概要 |
本研究では細胞内の分子夾雑な環境における生体分子の相互作用を定量に解析し、得られた定量的パラメータを基に生体反応を合理的に制御する技術の開発を目指す。そのために、特に生命の遺伝情報を担う核酸に着目し、次の二点を遂行する。 (1) 細胞環境の化学模倣実験系の構築:細胞の生体分子の物性や形状を模倣した合成分子を用いて細胞模倣実験系を構築する。 (2) 細胞における生体分子の定量的機能―環境定量相関(QFER)の解明:上記実験系を用いて、核酸の構造安定性や機能と環境因子の定量的相関関係を解明し、セントラルドグマに関与する核酸の機能を合目的的に制御する。 本年度(2018年度)は、夾雑分子(ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン等)を用いて細胞模倣実験系を構築し、がんに関わるDNAの四重鎖構造の安定化機構や(Nucleic Acids Res, 46, 4301 (2018)、Angew. Chem. Int. Ed., 57, 15723 (2018))、細胞内での構造を明らかにした(Anal. Chem., 91, 2561 (2019))。さらに、QFERの解明を目指し、細胞内において転写、翻訳反応過程を定量的に解析する手法を開発し、細胞内における核酸構造の重要性を示唆する知見を得た (Nat Struct Mol Biol., 25, 279 (2018)、J. Am. Chem. Soc., 140, 5774 (2018))。また、機能性RNAの立体構造変化に夾雑分子が影響することも明らかにできた(Angew. Chem. Int. Ed., 57, 6868-6872 (2018))。さらに、がん遺伝子上のmRNAに小分子を結合し、小分子に近赤外光を照射すると、mRNAできる技術の開発を行った(Nat. Commum., 9, 2271 (2018))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、(1)細胞模倣実験系を構築し、(2)生体分子の機能-環境定量相関(QFER)の解明と生体分子の機能制御を目指す2段階の研究を遂行した。 まず(1)として、生体高分子、代謝産物、浸透圧調節分子などを共存溶質として水溶液中に添加して細胞模倣実験系を構築し、核酸の構造や機能を熱力学的・速度論的手法によって解析することを試みた(Nucleic Acids Res., 46, 8, 4301-4315 (2018)など)。 さらに、細胞の分子環境変化が核酸構造に及ぼす影響を解析するために、溶液環境構造を変化させるG四重鎖のDNA配列を用いた環境応答型DNAセンサーを開発した(Anal. Chem., 91, 2561 (2018))。 (2)として、QFERの解明を目指し、細胞内において転写、翻訳反応過程を定量的に解析する手法を開発し、細胞内における核酸構造の重要性を示唆する知見を得た (Nat Struct Mol Biol., 25, 279 (2018)、Anal. Chem., 90, 11193 (2018))。さらにナノデバイス中で遺伝子発現を解析し、夾雑環境で代謝産物が遺伝子発現を活性化することを見出した(ACS Synth Biol. 8, 557 (2019))。また、機能性RNAであるリボスイッチアプタマーは,夾雑環境下では,試験管内よりもよりダイナミックな立体構造を変化させた(Angew. Chem. Int. Ed., 57, 6868 (2018))。さらに、がん細胞に多量に発現するmRNA中のG四重鎖に結合する小分子をがん細胞に導入し、小分子に近赤外光を照射すると、G四重鎖が分解され、特定のがん遺伝子の発現を抑制できる技術の開発を行った(Nat. Commum., 9, 2271 (2018)、日本経済新聞など50社以上に掲載)。
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