研究実績の概要 |
本研究では、生命の遺伝情報を担う核酸に着目し、(1) 細胞環境の核酸の挙動を物理化学的に解析できる「細胞模倣実験系を構築する研究」と (2) 「生体分子の定量的機能―環境定量相関(QFER)の解明する研究」を行う。さらに(1)の研究において得られた核酸の定量的パラメータを基に、セントラルドグマに関与する核酸の機能を合目的的に制御する研究を遂行する。 2020年度は、(1)の研究として、細胞内を模倣した分子夾雑環境下において、核酸構造の安定性を物理化学的手法により解析し、得られた知見をデータベース化し、細胞内に近い分子環境下においてRNA/DNAやDNA/DNAの構造安定性を予測できるエネルギー・パラメータを開発した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 117, 14194-14201 (2020)、 Nucleic Acids Res., 48, 12042-12054 (2020))。 さらに、細胞内の核酸構造を予測する指針ができたことから、 (2)の研究として、細胞の分子環境変化に応答して変化する核酸構造の役割を解析した。例えば、分子夾雑環境下でのRNAプライマー伸長反応を詳細に検討して、ワトソン・クリック塩基対ルールとは異なる現象を見出した(RSC Adv., 10, 33052-33058 (2020))。また、神経変性疾患細胞において凝集体を形成すると細胞毒性を示すRNA配列は、溶液のカチオンの濃度に応じてRNAの構造を変化させ、液―液(または個体)相分離を引き起こすことを明らかにした(第14回バイオ関連化学シンポジウム等発表)。さらに、核酸構造とリガンドの相互作用を活用し、四重らせん構造を標的とした分子標的型光線力学療法を開発した(Genes, 11, 1340 (2020)など))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「細胞の分子夾雑環境」を化学的に理解し、核酸の非標準構造とその機能を制御する技術の開発を目的とし、 (1)「細胞模倣実験系を構築する研究」と (2) 「生体分子の定量的機能―環境定量相関(QFER)の解明する研究」を行う。 2020年度は、(1)の研究として、セントラルドグマに関わる生体反応に摂動を与える非二重らせん構造を物理化学的手法によって解析し、がん遺伝子上の四重らせん構造に及ぼす分子環境の効果や(Biochemistry, 59, 2640-2649 (2020)、Int. J. Mol. Sci. 22, 947(2021)など)、DNA/DNAおよびRNA/DNA二重らせん構造を細胞内で予測できるパラメータをデータベース化できた(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 117, 14194-14201 (2020)、 Nucleic Acids Res., 48, 12042-12054 (2020))。さらに、これらの知見を基に、遺伝子発現の制御を目的として核酸構造と天然アルカロイドなどの小分子の相互作用に関するエネルギーパラメータを収集した (第14回バイオ関連化学シンポジウムで発表)。さらに、核酸の機能を合目的的に制御する実験に関しても着手し、成果を挙げつつある(Molecules, 25, 4120 (2020) , Medical Science Digest.,46, 26-27 (2020)。そのため、本研究はおおむね順調に進展している。
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