研究実績の概要 |
本領域研究では、細胞内の分子夾雑環境において、生命分子(特に核酸)を物理化学的に解析し、分子夾雑環境が遺伝子発現機構に及ぼす影響を解明する。さらに定量的データを基に、遺伝子発現機構を制御することを目的としている。2021年度の研究成果を下記に示す。 まず、核酸構造がウイルス感染に及ぼす影響を解明するために、ウイルスの感染に関わるプロアーゼの遺伝子(TMPRSS2)上の四重らせん形成配列と、その周辺の配列を解析した。その結果、四重らせん構造とヘアピンループの構造的競合が見られ、細胞内の環境変化(夾雑分子やイオン濃度の変化)に応じて構造を変化させ、このような構造変化は、遺伝子発現を制御していることが示された(Chem. Commun., 58, 48 (2021))。 また、ヒト細胞内において、安定な四重らせん構造が形成されると、複製などの遺伝子発現機構が抑制さることが明らかになった(Nucleic Acids Res., 49, 7839 (2021)、Acc. Chem. Res., 54, 2110 (2021))。さらに、四重らせん構造を安定化させるリガンドの相互作用を解析した結果、リガンドは四重らせん構造をトポロジー依存的に安定化し、これらの結合は複製速度にも影響を及ぼすことが示された(J. Am. Chem. Soc., 143, 16458 (2021))。さらに、miRNAと三重らせん構造を介して結合し、遺伝子発現を制御する人工核酸(Peptide Nucleic Acid (PNA))の開発も行った(ACS Chem. Biol., 16, 1147 (2021))。これらの研究成果を活用することで、人為的に核酸構造変化を誘起し、標的遺伝子の発現と機能を特異的に制御する汎用性の高い創薬技術の開発の可能性が見出された。
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