計画研究
本研究では、「夾雑系における凝集」という視点から、蛋白質凝集を研究し、その実態と原理に迫る。こ平成30年度は以下の実績を得た。(1)試験管内夾雑モデル系の構築と凝集分子機構:αシヌクレインが等電点pH(=4.7)、低イオン強度条件下でアミロイド線維を形成することを見出した。NMRを用いた残基レベルの解析を行い、等電点における分子内静電的相互作用が分子間に置き換わることによってアミロイド線維の形成することを示した。αシヌクレインは溶解性の高い蛋白質であり、アミロイド形成には高濃度の塩が必要と考えられていた。本結果より、アミロイド線維は、溶解度を超えた変性蛋白質の結晶性の析出であることが、さらに明らかとなった。(2)アミロイド線維形成の温度依存性と生体における温度の役割:β2ミクログロブリンのネイティブ状態の安定な中性条件において、特に高温の凝集にもたらす効果を調べた。中性pHではアミロイド線維はできにくいと考えられていたが、高温にすることによってアミロイド線維が比較的容易に形成することを明らかにした。塩濃度と温度に依存した凝集の相図を作成した結果、温度がこれまで考えられてきた以上にアミロイド形成の重要なリスクファクターであることを示した。(3)β2ミクログロブリンの原子構造の解明:蛋白質研究所の固体NMRの研究グループと、固体NMRを用いてβ2ミクログロブリンのアミロイド線維に構造解析を進め、原子レベルの構造解析を加速した。(4)アミロイド形成促進因子:アミロイド形成を促進する化合物としてポリリン酸に注目した。生体に微量ではあるが普遍的に存在するポリリン酸は、β2ミクログロブリンのアミロイド線維形成を著しく促進することを見出した。特にアミロイド線維形成が起きにくいと考えられていた中性pHでも、ポリリン酸存在下ではアミロイド線維形成が起きたことを興味深い。
2: おおむね順調に進展している
予定していた研究を進める中で、2つの予想しない展開があった。まず、αシヌクレインが等電点pH、低イオン強度条件下でアミロイド線維を形成することを発見した。意外な発見であるが、アミロイド線維が溶解度を越えた条件で形成される結晶性の析出であることから容易に理解できる。また、β2ミクログロブリンが、中性pHにおいても温度を上昇することにより、比較的容易にアミロイド線維を形成することを見出した。このような温度依存性は、一般的な蛋白質の構造安定性に基づいて理解できる。以上により、順調に研究を進めることができた。
当初計画の通り、夾雑系における蛋白質凝集を、「溶解度」、「過飽和」、「結晶性およびガラス性状態の区別」などによって、原理的かつ包括的に理解すると共にその制御を目指す。特に領域の他の研究代表者との共同研究を実施し、新たな研究の進展、分野の開拓を目指す。上記の「意外な2つの発見」をさらに発展させることを目指す。具体的には以下の4つの研究課題を推進する。1.試験管内夾雑モデル系の構築と凝集分子機構2.アミロイド線維形成の温度依存性と生体における温度の役割3.β2ミクログロブリンの原子構造の解明4.アミロイド形成促進因子
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
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