研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06355
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田端 和仁 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (50403001)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 無細胞合成 / オスモライト / クラウディング / マイクロデバイス / 細胞サイズ |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、PUERシステムを使ったオスモライトによるタンパク質合成活性への影響を調べた。これは、融合細胞を作成した際、そのタンパク質合成活性などが大幅に低下する現象を明らかにし、対策するために実施している。本年度の成果として、上記以外に融合細胞の作成に関する論文と、大腸菌の巨大化による分裂能の報告を行った。PUREを用いた研究では、4種類のタンパク質に対して、ベタインとTMAOのそれぞれのオスモライトの効果を調べた。3種類のタンパク質において合成活性が向上し、1種類のタンパク質において合成速度の向上が見られた。DNAからのタンパク合成とRNAからのタンパク合成を比較することによって、これらの活性向上はタンパク質翻訳のステップを加速していることがわかった。これらのことから、オスモライトという低分子化合物でも分子夾雑効果を発揮し、タンパク質合成という細胞機能を活性化していることが示唆された。また、融合細胞の作成においては、脂質二重膜を張ったマイクロチャンバーデバイスと大腸菌プロトプラストを融合する方法を確立し、融合するプロトプラストのサイズから融合細胞内の細胞質濃度の希釈割合を求めて細胞内夾雑環境がタンパク質合成に与える影響を調べた。その結果、希釈倍率が大きいデータが多くないため断定はできないが、希釈倍率が少ない方が活性が高い可能性が示唆された。さらに、巨大化大腸菌を作成し、その巨大化の過程から体積が1000増えたあたりが内部代謝の限界であることが見られ、分裂においては400倍程度が限界であることが見いだされた。これらは、大腸菌のような単純な生命システムがどの程度の大きさまでその機能を維持できるかを示している。これらの成果はすべて論文として報告している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画と異なる部分も出てきたが、これまでの成果を論文として報告できるなど計画は順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞内システムを単純化したPURE systemを用いて、微小空間における夾雑環境の影響や、非特異的吸着に関する影響を調査する。そのため、バルクで見いだされた条件を用いて、マイクロチャンバー内にタンパク質をコードしたDNAとPURE systemを閉じ込め、発現の確認を行う。この実験結果とバルクでの結果を比較することで、微小空間に閉じ込めることの影響を評価する。また、チャンバー内壁の修飾に関しても検討を行い、PURE systemを用いた実験で、そのタンパク質発現効率の検討を行うことで評価することで、最適な条件の探索を実施する。また、オスモライトも加えて夾雑環境を再現し、細胞レベルの微小空間内での効果を検証する。さらに、脂質二重膜作成に使う脂質の検討も実施し、浸透圧などでチャンバー内部体積を変えられる実験系の確立を目指す。これは、チャンバー内部と外部の浸透圧差による水の移動を利用して脂質二重膜を膨らませたり、へこませることでチャンバー内部の体積を変える実験系である。この実験系により、実験途中でチャンバー内部の物質濃度を変更することが可能となり、夾雑環境をリアルタイムに変更することが可能になる。また、融合細胞での実験も実施する。これまでの研究では、PURE systemなどの限られたコンポーネントで研究を進め、問題点の洗い出しを行っている。それを解決し、再度融合細胞の実験にフィードバックすることで細胞内夾雑環境を制御するデバイスの完成を目指す。できあがった融合細胞を用いて、浸透圧差を利用して融合細胞の体積を変更することで細胞内夾雑環境を変化させたときのタンパク質発現などの細胞機能に与える影響も評価する。
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