計画研究
今回、細胞内夾雑環境を制御する方法として、hybrid cell内外の浸透圧を変化させることで、その体積を変化させ内部の密度を変える方法を思い立った。しかしながら、浸透圧を変化させるためにはhybrid cell外部の溶液を変化させる必要がある。また、実験的には、繰り返し溶液を変化させて再現性などを確認する必要もある。そのため、今回私たちは、微小溶液チャンバーデバイスを用いて繰り返し溶液交換出来る実験系の開発を実施した。その実証実験として1分子酵素活性の連続的な計測を実施した(Honda et al. Anal. chem. 2021)。この結果、インフルエンザウイルス1粒子に対してノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビルとザナミビルの濃度を連続的に変化させることで、1粒子の阻害曲線の作成に成功し、それぞれのIC50を求めることが出来た。ウイルス集団に含まれる個々のウイルスのIC50にも分布があることがわかった。さらに、オセルタミビルとザナミビルそれぞれのIC50の相関を調べることが出来た。これらの結果は、連続的な溶液交換系を使うことで1粒子のウイルスや1分子の酵素の多次元条件計測が可能であることを示した。これは、これまでの1分子計測で得られていた情報をさらに拡大するモノであり、分子や分子集団の個性を理解するために重要な技術となる。さらに、本溶液交換系を利用して、脂質二重膜を展開した微小溶液チャンバー内外の浸透圧変化を誘起したところ、脂質二重膜の変形が観察された。これは、hybrid cellの能動的なサイズ変化を起こすことが可能になり、リアルタイムに細胞内夾雑環境を変化させる系になると考えている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画であった、巨大化大腸菌のサイズ依存的なhybrid cell内部の夾雑環境評価も完了し、浸透圧を利用した能動的な体積変化による、細胞内夾雑環境変化を起こす実験系の開発に取り組んでいる。実験系自体の組み立てと原理検証が完了し、hybrid cellの体積変化による細胞内夾雑環境操作系の開発をスタート出来た。次年度にはhybrid cellの体積変化とタンパク質合成能の関係を明らかにしていく。これは、当初計画の最終ゴールであり、最終年度に取り区も予定であった。よって、計画通りに進行していると考えている。
本年度は、マイクロチャンバーに対して展開した脂質二重膜を用いて、チャンバー内外の浸透圧を連続的に変化させることで、脂質二重膜の形状変化をモニターする。ここから、チャンバー内部の体積変化を見積もることで、浸透圧変化で誘起出来る濃度変化を調べる。その後、hybrid cellを用いて同様の実験をおこない、hybrid cellの体積変化を見積もることで細胞内夾雑環境をどの程度変化させることが出来るかを検証する。最終的には体積変化させる前とあとで、タンパク質合成能の変化をモニターすることで細胞内夾雑環境が細胞の機能に与える影響を評価する。タンパク質合成に関しては、これまでhybrid cell内で発現させた実績のあるβガラクトシダーゼを用い、検出用基質としてSPiDERを利用する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Nat Commun.
巻: 11 ページ: 2924
10.1038/s41467-020-16770-z.