脳腫瘍の診断と治療において、最も重要なのは、腫瘍の進展や悪性化の頻度を考慮にいれて、最善のタイミングに最善の治療を施すことである。腫瘍のひとつひとつの細胞の増殖率、悪性化率(遺伝子変異率)を算出することで、個体の腫瘍の増殖曲線と変異確率を提示できる。これまで、「積極的治療を今おこなわなくても、しばらく経過観察でよい」とされていた腫瘍は、この治療法で本当に良いのだろうか。これを数理モデルで明らかにした。その場合でも早期発見は予後良好に資するところが大きい。早期発見は勘弁な検査で達成できるようになった。尿1mLに含まれる遺伝子の解析により脳腫瘍や他のがん種を早期診断できる画期的な技術を開発した。日本の10施設で治療された276例の低悪性度IDH変異神経膠腫のMRIから算出した腫瘍体積と治療歴を含む時系列データを用いて、治療による影響を加味した腫瘍増殖に関する数理モデルを構築し、さらに網羅的な遺伝子変異解析を行うことで、各治療が腫瘍の増殖および悪性化に与える影響を推定し、各症例おいて悪性化を防ぐ最適な治療戦略を明らかにすることを目指した。具体的には1)腫瘍細胞が遺伝子変異などの「悪性化に関わるイベント」を稀に獲得し、これが一定数蓄積された段階でその細胞は悪性化すると仮定し、2)化学療法や放射線治療は、これらの治療を受けていない腫瘍細胞に比べ「悪性化に関わるイベント」を獲得する確率を変化させると仮定して、各症例の経過中の悪性化リスクを計算した。
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