研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
17H06358
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 貴浩 京都大学, 理学研究科, 教授 (40281117)
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研究分担者 |
大原 謙一 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00183765)
真貝 寿明 大阪工業大学, 情報科学部, 教授 (30267405)
高橋 弘毅 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (40419693)
瀬戸 直樹 京都大学, 理学研究科, 助教 (80462191)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙物理学 / 重力波 / ブラックホール / データ解析 / 重力理論 |
研究実績の概要 |
計画研究A01の目標は、重力の標準理論である一般相対論を越えた拡張重力理論に対する重力波波形の理論予測にもとづき、重力波データから新しい制限を導出することである。BH連星合体からの重力波は2018年までの観測で10のイベントが検出されている。連星合体からの重力波波形は一部の不定性を除き理論的に予測でき、重力理論の検証が可能である。このような着想のもと、拡張重力理論における重力波波形を予測し重力波データを解析することで、一般相対論からのずれの検出、あるいは、重力理論に対する制限を得るという研究を隔週のミーティングを持ちながら進めている。本研究が始まるまではこのような野心的なデータ解析を日本で組織することはなされていなかった。本年度ポスドク研究員を採用し、基本的な解析ツールの開発を終え、実データを使ったいくつかの研究成果の発表に至っている。先行するLIGO/Virgoの解析では具体的なモデルに依存しない解析が中心に進められている。我々は、重力波データからより多くの情報を引き出すことを目指し、理論的に整合性があるが、モデルに依存しない解析では見落とされる一般相対論からのずれを綿密に精査することを目指している。具体的には、スカラーテンソル理論で、パルサー観測による制限を回避する小さな質量を持ったスカラー場の理論に対する制限、ブラックホールのホライズン境界条件が修正を受けている可能性を示唆するブラックホールエコーの再解析などをおこなった。加えて、ブラックホールが一般相対論で記述できていることを決定的なものとするブラックホール準固有振動の同定の手法の優劣を、5つの異なる解析手法を比較するという形で論文にまとめた。 加えて、基礎となる理論的な研究としては、研究協力者である西澤らによる、GW170814イベントを用いた重力波伝播の偏向に対する制限の研究などの成果を挙げている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
領域発足以来、計画研究A01では隔週で定期的に全体でのTV会議によるミーティングを持ち、強い連携を保ち研究を進めている。TV会議の組織はポスドク研究員が責任を持って行っている。 様々な重力波データ解析手法間の互いの性能の比較を行うも目的で、モックデータチャレンジという形の擬似データに対するパラメータ推定の精度を比較することで、異なる手法の性能を正当に評価するということを行ったが、これを論文にまとめるまでに仕上げた。 これと並行して、様々な重力理論の修正に対するテストを実行に移すための準備を進めた。どのような重力理論のテストが実現可能であるかのサーベイは初年度に済んでいたので、その絞り込んだターゲットのサーチに適した解析プログラムの開発を新規に採用した研究員を中心に、日本独自の解析ライブラリであるKAGALIという共通のプラットフォームを用いて、系統的に進めた。しかし、必要な解析ツールが完全に準備できているわけではない。必要なツールの整備をある程度は終えて、LIGOの実データを用いた質量を持つスカラー場をもつスカラーテンソル理論の検証や、ブラックホールエコーの検証の論文を執筆中である。 Adv LIGO、および、adv Virgoで得られたO2データも既に公開されている。2017年度に導入した大規模データサーバに加えて、2017年度には高速のデータ解析のための計算機サーバーも導入し運用を開始した。これらを用いた解析が進むことで、計算機の能力は限られているものの、現在我々が進めているような重力理論の検証という立場の解析には十分に解析が可能であるということも実証された。
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今後の研究の推進方策 |
当初の方針からの大きな変更はない。 LIGO O2データも既に公開されており、公開までに大きな時間差がないことが明らかになった。今後はこの流れはさらに加速されるものと思われる。さらに、2019年の秋からKAGRAが共同観測に参加することで、A01の主要メンバーはいち早くデータにアクセスできるようになると期待される。その段階で、LIGO/Virgoとの共同研究として日本発の提案ができるように準備を進めることが慣用である。 雇用したポスドク研究員はKAGALIを使いこなすべく努力を払ってくれている。一方で、日本の連星合体イベントサーチのデータ解析チームがLIGOの解析ソフトをベースに解析を進めることを決定し、方針に一貫性を欠いてしまっている点は残念であるが、LIGOのデータ解析ライブラリとは独立な解析ライブラリを開発し冗長性を持たせることの必要性は現時点でも変わっていない。これまで通り、重力理論の拡張に対するテストについては何を行うべきか検討が進んでいるので、研究員の用務を実際のコード開発に集中し精力的に開発を進めていく。
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