研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
17H06361
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田越 秀行 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (30311765)
|
研究分担者 |
木内 建太 京都大学, 基礎物理学研究所, 特任准教授 (40514196)
カンノン キップ 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50777886)
伊藤 洋介 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60443983)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 重力波 / 中性子星 / ブラックホール / マグネター / レーザー干渉計重力波検出器 / 連星中性子星 |
研究実績の概要 |
連星合体重力波探索パイプラインgstlalをKAGRAデータ処理に用いるための準備を引き続き行った.また,連星合体重力波探索の際の各イベントの統計的有意さを決める,ノイズによって生じる偽イベント発生確率の新しい評価方法として,極値分布を用いた方法について検討を行った.また,数値相対論による連星中性子星合体からの高精度重力波波形導出を継続して行った. 本年度は以上の他にも観測された連星中性子星合体重力波を使った研究や,連星中性子星合体に関係した天体物理学的研究も行った.連星中性子星合体重力波信号GW170817のデータを独自に再解析をして,中性子星の潮汐変形率への制限を行った.使った波形は,LIGOの解析でも用いられている,最も単純なモデルである.その結果,LIGOハンフォードデータとリビングストンデータから得られる潮汐変形率の事後確率分布の形がかなり違うことを示した.この結果はこれまで指摘されてこなかった知見である.連星中性子星合体後に出来る強い磁場を持つ中性子星の数値相対論的シミュレーションを行った.その結果,ケルビン・ヘルムホルツ不安定性が磁場のエネルギーを熱エネルギーの1%程度まで増強され,また中性子星の外周やトーラスに発生する磁気回転不安定性が,磁気乱流を維持することを示した.連星中性子星合体にともなう力学的な放出物の数値相対論的シミュレーションを行い,その速度が光速の70%まで加速されることが分かった.この物質と周辺に存在する星間物質との相互作用により発生するシンクロトロン放射は,星間物質の密度がある程度以上で,2つの中性子星がほぼ同じ質量で,状態方程式が柔らかいという条件を満たせば,GW170817の非熱的放射を説明出来ることが分かった. また,マグネター関連の研究としては,よじれた磁場を持つマグネター磁気圏モデルを構築し,マグネターフレアとの関係を調べた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連星合体探索パイプラインgstlalによりKAGRAデータの解析を行うため,KAGRAのオンラインデータ転送システムとgstlalを接続し,オンラインデータ処理試験を行った.また,数値相対論シミュレーションの準備は順調に進み,多くのシミュレーションを実施した.LIGOにより検出された連星中性子星合体信号GW170817データの独自のパラメータ推定を行い,これまでに指摘されていなかった,LIGOハンフォードとリビングストンの結果の食い違いについて独自に指摘することが出来た.
|
今後の研究の推進方策 |
コンパクト連星合体解析と背景重力波解析 LIGO/Virgoの第3回観測運転期間中の2019年度中に行われる予定の,KAGRAの最初の観測運転データの解析の準備を引き続き行う.コンパクト連星合体重力波探索パイプラインの開発とテストを行う.データ解析パイプラインgstlalをKAGRAのデータ処理で用いるための準備を行う.更に,多数のコンパクト連星合体重力波が作る背景重力波を,KAGRAを含めた検出器ネットワークで解析を行う準備を行う. 中性子星連星合体からの重力波について高精度波形モデルを導出する.連星質量,質量比,スピン, 状態方程式について,さらに広範なパラ メータースタディを行う.GW170817などの重力波信号データに高精度波形モデルを適用して,潮汐変形率への制限を行い,既存モデルの結果と比較する. 更にKAGRA観測運転データによる連続重力波解析の準備を行う.将来の本格観測において必要な雑音特性評価をおこなう.
|