研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
17H06362
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
河合 誠之 東京工業大学, 理学院, 教授 (80195031)
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研究分担者 |
吉田 篤正 青山学院大学, 理工学部, 教授 (80240274)
三原 建弘 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (20260200)
根來 均 日本大学, 理工学部, 教授 (30300891)
上田 佳宏 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10290876)
深沢 泰司 広島大学, 理学研究科, 教授 (60272457)
井岡 邦仁 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (80402759)
有元 誠 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員(研究院講師) (40467014)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | X線天文学 / ガンマ線天文学 / 重力波 / 中性子星 / ブラックホール |
研究実績の概要 |
MAXI搭載ガススリットカメラ(GSC)により重力波対応X線源を迅速に探索するシステムの開発を進めた。研究開始直後に発生した最初の連星中性子星合体GW170817に対し、MAXIは世界で最も早くX線の上限値をもたらした。Swift/UVOTによって、飛散物内の不安定重元素の崩壊によるキロノバ(マクロノバ)放射を確認した。Chandra衛星による高感度X線観測では合体2週間後から始まり、数ヶ月の強度増大の後に減光するX線放射を観測した。これは視線と30度の角度をもって射出された相対論的ジェットからの放射と考えられ、連星中性子星合体が短いガンマ線バーストの起源である証拠と考察される。また、マクロノバのエネルギー源として中心エンジンの可能性やジェットからの高エネルギーニュートリノも見積った。 Fermi/LAT、CALET/GBMによるガンマ線観測も継続し、GW170817に対しては、それぞれ上限値を得た。 重力波源と関連の深いX線連星を研究するため、MAXIは全天X線監視観測を継続し、MAXI J1535-571などのブラックホール新星の発見などの成果を上げた。天の川銀河を含む近傍宇宙におけるブラックホールの分布と統計的性質を調べるため、MAXI/GSCの2009年-2016年のデータに基づくX線源カタログを発表した。これは4-10 keV帯をカバーした全天カタログとして過去最高の感度を実現し、計896天体を含む。 短いガンマ線バーストに対する系統的な研究を進め、その発生環境が連星中性子星合体起源に整合することや、その突発放射に続くX線超過成分の性質などを明らかにした。 高速電波バーストの連星中性子星合体起源理論モデルの構築を進めるとともに可視光残光への観測的制限を得た。GRB残光による宇宙再電離計測可能性の検討のため宇宙再電離シミュレーションを用いた解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の第一の目標である重力波天体の高エネルギー放射の研究は、研究開始直後に史上初の連星中性子星合体事象GW170817が重力波望遠鏡LIGO-Virgo によって検出された、さらに半日後に光学対応天体が同定され、距離40 Mpcという予想外に近い銀河での発生であることがわかったため、当初の想定を大幅に上回る研究成果を上げることができた。観測面においては、本計画研究班のメンバーは、人工衛星を用いた紫外線・X線・ガンマ線観測に加わり、Swift/UVOTによる紫外線観測、Chandra衛星による高感度X線観測に加わり、連星中性子星合体の飛散物中で合成された不安定重元素の崩壊に起因すると考えられるキロノバ放射の発見および、相対論的ジェットからのシンクロトロン放射と考えられるX線残光の検出と継続的観測に成功し、歴史的イベントの観測において重要な役割を果たした。 理論研究においては、予想以上に早い段階で連星中性子星合体イベントが検出されたので、計画以上のスピードで研究を遂行する必要があった。また、当初、最初に観測される電磁波対応天体がガンマ線バーストではない、と予想していたが、いざ観測されて、理論を再吟味して見ると、ガンマ線バーストが観測される確率もそれほど大きくはないが無視できないことが分かった。事前の準備研究により再吟味するのにかかる時間は抑えられ、素早く対応することができた。 研究のもう一つの柱である、重力波源に深い関わりがある天体である、ガンマ線バースト、ブラックホール、中性子星、高速電波バーストの観測・理論研究に関しては、ほぼ予定どおりに研究が進んでおり、論文の出版も順調である。MAXIによるブラックホールX線連星の発見も2017~2018年には平均(年間一個)を超えるペースで進んでおり、世界中のブラックホール研究の活性化に貢献している。
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今後の研究の推進方策 |
LIGO/Virgo による第3期重力波観測(O3)が当初の予定から数ヶ月遅れて2019年4月から1年間行われることになり、日本のKAGRAも途中から観測に加わる予定である。この間に検出される連星中性子星合体事象のX線・ガンマ線放射の探索と解析・解釈が、最大のテーマとなる。GW170817は、MAXIの観測が困難な領域(観測装置の保護のために観測を停止する全天の10%以下の領域)で発生したという不運があったため、世界最速とはいえ、MAXIによる最初の観測は重力波発生の5時間後であった。そのような領域を少しでも減らすようためにぎりぎりまで運用時間を拡大して観測運用を行う。また、重力波速報に直ちに対応できるような観測体制と即時解析システムの整備も進めて、コクーンモデルが予想する等方に近いX線放射や、視線がジェット軸に近いときに観測される早期残光の検出に備える。他のCALET, Fermi/LAT, Swiftについても同様にO3での重力波検出に対応した観測を実施する。 理論研究においては、連星中性子星合体後の飛散物質の中のジェットの伝搬と、そのときに生じる高温のコクーンの生成と放射を数値的および解析的に調べ、GW 170817や今後の重力波事象での性質に制限を加える。また、観測される残光から逆にジェットの構造を導く方法論を確立する。 O4は、今の所、観測最終年度の2021年に計画されているので、そこまでは、MAXIをはじめとする各X線・ガンマ線ミッションの継続的運用を実施する。また、定常的なX線連星、超高光度X線源、ガンマ線バースト、高速電波バーストの観測・解析・理論研究も継続し、重力波源となる連星中性子星やブラックホールの宇宙や銀河系における分布や形成起源にかかわる研究を深めていく。
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