研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
17H06363
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
吉田 道利 国立天文台, ハワイ観測所, 教授 (90270446)
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研究分担者 |
冨永 望 甲南大学, 理工学部, 教授 (00550279)
関口 雄一郎 東邦大学, 理学部, 講師 (50531779)
川端 弘治 広島大学, 宇宙科学センター, 教授 (60372702)
伊藤 洋一 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (70332757)
田中 雅臣 国立天文台, 理論研究部, 助教 (70586429)
酒向 重行 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90533563)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 光学赤外線天文学 / 重力波天体 / 突発天体 / 中性子星 / 元素合成 |
研究実績の概要 |
平成29年度前半は、J-GEMネットワークを用いて、米国および欧州の重力波望遠鏡LIGO、Virgoによる重力波観測のフォローアップ観測を重点的に行い、GW170814、GW170817の二つのイベントについて重力波の光赤外線対応天体探査を実施した。このうち、GW170817は人類初の中性子星合体の直接検出であったが、国立天文台すばる望遠鏡、名古屋大学IRSF望遠鏡などを用いて、光赤外線対応天体を検出、追跡観測することに成功した。すばる望遠鏡の観測は重力波発生から17時間後に行う事ができ、初期の可視光光度変化を追跡した。IRSFはおよそ1日後から観測を開始し、1μmから2μmまでの近赤外線で12日間の追跡観測を実施した。さらにすばる望遠鏡での赤外線追観測も実施して、総計15日間の追跡観測に成功した。このデータを詳細に分析し、本研究チームの理論班の理論シミュレーションと比較した結果、中性子星合体から放出された超高速物質中で高速の中性子捕獲反応が起こり、その結果大量の重元素が合成されたという証拠が得られた。これらの元素の放射性崩壊熱による光赤外線放射を捉えることに成功したのである。この追跡観測は、世界の他のチームとも協力しながら進めた。これは人類が初めて重力波と電磁波の双方を用いて天体現象を観測した画期的なイベントであり、ここにマルチメッセンジャー天文学の新たな地平が切り拓かれた。 並行して、中性子星を含む合体現象に関する数値相対論シミュレーションを進め、ニュートリノのエネルギー算出の研究を進めた。また、中性子星合体からの放出物質中の元素合成のシミュレーションを行い、放出物質からの電磁波放射の計算を行った。こうした理論的研究は、上記の観測データ解釈に用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
J-GEMネットワークによって、人類初の中性子星合体からの重力波検出であったGW170817の光赤外線追跡観測に成功し、重力波に伴う電磁波放射を捉えることに成功し、さらに2週間以上にわたってその光度変化を追跡することができた。そして、これらのデータと理論シミュレーションの結果を詳細に比較することで、中性子星合体からの放出物質中で、大量の鉄より重い元素が合成されているという証拠を得た。この研究結果は、r-過程元素の起源に迫る重要なものであり、すべてのr-過程元素が中性子星合体で合成されるという確実な証拠までは至らないものの、少なくとも一部のr-過程元素の合成現場を観測的に明らかにしたという意義がある。これは本計画研究の最終目標に迫るものであり、当初の予想をはるかに超える大きな成果であった。したがって、「当初の計画以上に進展している」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も以下の二本の柱で研究を推進する。 (1)数値相対論シミュレーションによる中性子星を含む合体現象からの電磁波放射の理論研究。平成30年度は、連星中性子星合体の数値相対論シミュレーションを行い、合体時に放出される中性子過剰物質の化学的・熱力学的性質を明らかにするとともに、多次元輻射輸送計算に必要な流体背景場モデルを提供する。重力波イベントGW170817によって中性子星の状態方程式モデルに制限が課せられたため、その制限に整合的な状態方程式を採用する。その上で、幾つかの連星パラメータでシミュレーションを行う。また、多次元輻射輸送シミュレーションを行い、GW170817の可視光赤外線対応天体の特徴を再現する二次元モデルを構築する。この結果に基づき、同じような中性子星合体が赤道方向から観測された場合の予想を提供する。さらに、連星の総質量質量比が異なる場合のシミュレーションも行う。これらを総合して、将来の中性子星合体イベントの観測に備える。 (2)J-GEMネットワークによる重力波源の電磁波対応天体の探査観測研究。平成30年後半にはLIGOおよびVirgoの第三回定常観測ランO3が行われる予定であるため、それに向けて年度前半はJ-GEM観測システムの整備に集中する。この時、GW170817での観測経験を活かして観測効率の大幅な向上を目指す。また、大型計算機を導入し、迅速なデータ処理システムの構築を行う。年度後半はO3に対応したフォローアップ観測を重点的に行い、複数の中性子星合体イベントの光赤外線対応天体の検出と追跡を目指す。
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