研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
17H06364
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
固武 慶 福岡大学, 理学部, 教授 (20435506)
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研究分担者 |
神田 展行 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (50251484)
滝脇 知也 国立天文台, 理論研究部, 助教 (50507837)
端山 和大 福岡大学, 理学部, 准教授 (70570646)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 重力崩壊型超新星 / 重力波 / 中性子星 / ブラックホール / スーパーコンピューティング / ニュートリノ輻射輸送 / 数値相対論 / 高密度状態方程式 |
研究実績の概要 |
本研究年度に得られた研究業績のハイライトを以下まとめる。 (1)超新星コアにおける衝撃波不安定性を起源とする重力波の円偏光成分を発見 超新星爆発のダイナミクスと重力波の放射機構を明らかにするために、スーパーコンピューターを駆使した大質量星(15太陽質量)の重力崩壊の大規模3次元(3D)シミュレーションに基づき、その重力波シグナルを詳細に解析した 。その結果、爆発開始前の超新星コアで発達する様々な流体不安定性の発達の度合いが、重力波波形を特徴づけることを明らかにした。特に「SASI」と呼ばれる衝撃波のグローバルな変形が引き金となって生成される重力波が円偏光成分を持つことを指摘することができた。 (2)ブラックホール形成を伴う大質量星の一般相対論的3Dシミュレーションに着手 本年度は爆発する超新星モデルばかりではなく、ブラックホール形成を伴う大質量星(70太陽質量)の一般相対論的3Dシミュレーションにも着手することができた。このような低金属の大質量星はLIGO-Virgoコラボレーションで初検出されたブラックホール(連星系)の最有力候補の一つである。従来予想されていた遅延ブラックホールシナリオ(ニュートリノ加熱の効果で一旦失速した衝撃波が復活してから、ブラックホール形成が起こる)を始めて数値シミュレーションで再現することが出来た。またブラックホール形成に伴う重力波強度、ニュートリノ放射の定量的予測も行った。今後、本研究テーマは、コアの自転・磁場を考慮するなど、より発展させていく計画である。 (3)超新星重力波の新解析法の開発:超新星重力波の時間・周波数空間における特徴を明瞭に引き出す手法としてウィグナー・ビィレ(WV)解析を導入し、中性子星の固有振動モード、更には衝撃波不安定性に関する情報が重力波スペクトルから読み取れることを指摘することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の達成目標を果たすため、これまでほぼ研究計画通りに研究テーマを進展させ成果を得てきた。これまで得られた具体的取組と成果のハイライトは、(1)超新星コアにおける衝撃波不安定性を起源とする重力波の円偏光成分を発見, (2) 超新星重力波とニュートリノの同時観測から探査可能な超新星エンジンの物理的特徴を具体的に指摘・新たな超新星重力波解析法の構築, (3) ブラックホール形成を伴う大質量星の一般相対論的3Dシミュレーションに世界に先駆けて着手したことである。これらの成果のほとんどは、レター論文として発表されたものであり、着実に科学的インパクトのある成果を創出できたと考えている。特に,上記課題(3)に関しては本科研費で雇用した研究員が自転を伴う大質量星の重力崩壊の数値シミュレーションを開始しており、現在成果を論文としてまとめている。 上記成果に加えて、本研究計画の主要なテーマである超新星重力波の検出に向けた準備も着実に進んでいる。研究初年度に導入した専用のクラスタ計算機を駆使し、LIGOと国際共同研究を進めながら、重力波円偏光の情報(ストークスパラメータ)を用いた世界初の全天探査パイプラインに向けた準備を進めている。このテーマに関して、ポスドク研究員(研究次年度より雇用、外国人若手)が中心となってその構築を進めている。また近く実現する観測に備えてA01、B01、KAGRAと連携して、世界の観測データへの効率的なデータアクセスと、共同利用を前提とした運用体制を整備した。実際の観測データを低遅延で利用するために、KAGRAから直接データ転送を受ける計算サーバを整備して試験開発、本年度にはオペレーティングシステムの更新とノード構成の最適化を行なった。これらにより、本研究班で狙う重力波イベント解析に必要な、KAGRAおよび国際観測網からの低遅延でのデータ受信の準備が進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究成果、研究進捗状況を踏まえ、以下の研究推進方策・体制を取っていく。 1)新たなデータ解析法の応用:これまでの成果として、超新星重力波の時間・周波数空間における特徴を明瞭に引き出す手法としてウィグナー・ビィレ(WV)変換を導入し、スペクトログラムから中心エンジンの動的進化に関する読み取れることを指摘した。今後は、様々な質量をもつ親星に対して行った新たな3D超新星シミュレーションから得られた重力波波形に対してWV解析を行い、重力波シグナルが持つ普遍的な特徴を探すべく、波形の特徴を精査する計画である。 2)超新星重力波の円偏光:一般相対論的効果・新しいニュートリノ反応率を用いた数値コードを用い、高速自転星の重力崩壊シミュレーションを実行し、非軸対称モードが生成する重力波シグナルの特徴を精査する。特に、重力波の円偏光強度について調べ、その観測可能性さらにはニュートリノシグナルとの相関を定量的に明らかにする計画である。 3)ブラックホール形成を伴う大質量星の自転重力崩壊に伴う重力波の放射過程の研究:重力波放射天体の親星として注目されている高速自転・低金属星を初期条件に選び、一般相対論的ニュートリノ輻射流体シミュレーションに基づき「回転するブラックホール誕生のダイナミクス」並びにその際に放射される重力波シグナルの特徴を世界に先駆けて明らかにする計画である。本課題は降着円盤・ブラックホールシステム形成の解明に迫るものとしてもインパクトのある成果が期待できる。 4)上記課題(1)-(3)で得られるコンパクト天体形成に伴う重力波波形の系統的データ、新たな波形データ解析法を用い、まずは現在稼働中のLIGOの公開データ、更にはKAGRAを始めとする次世代干渉計のデータにおいて、超新星起源の重力波の系統的探索を世界に先駆けて行うと同時に、近傍の超新星イベントに備える。
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