研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06379
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 耕司 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (00173427)
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研究分担者 |
田中 伸一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40262919)
谷口 一美 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80293992)
保坂 道雄 日本大学, 文理学部, 教授 (10229164)
太田 真理 九州大学, 人文科学研究院, 講師 (20750045)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 階層性と意図共有 / 生成文法と認知言語学 / 運動制御起源仮説 / 概念メタファー / エレメント理論 / 助動詞選択 / 経頭蓋電気刺激法 / 言語早期発現仮説 |
研究実績の概要 |
本計画班は,生成文法と認知言語学という,言語学内部ではこれまで対立のみが目立ってきた2つの潮流につき,そのいずれもが一方だけでは言語進化の十分な理解に到達し得ないとの基本認識のもと,両者の利点を融合することを目指して精力的な研究を展開してきた. 人間の言語能力を大きく特徴づけている階層文法について,生成文法の「併合 Merge」を仮定した上で,その起源・進化について漸進進化のシナリオを構築した.これは藤田の「運動制御起源仮説」を基本とするものであるが,これ自体,併合は一般的認知能力(汎用併合)からの領域固有化の一例であるとする点で,すでに認知言語学的な観点を十分に取り込んだものである.協力・星が独自に提案した「カテゴリー化能力起源仮説」も,カテゴリー形成能力という一般的認知能力を併合の進化的ルーツととらえるものであって,「運動制御起源仮説」と同じ視点に立つ. 谷口は,この2つの仮説を統合し,さらに認知言語学との融合を推進すべく,谷口はイメージスキーマの観点からこれらの仮説を検討し直した.また,概念メタファー等の写像理論を言語進化研究に応用する可能性について検討した.田中は,音素の構造表示として弁別素性理論よりエレメント理論のほうが優れていることを,日本語母音融合現象の分析や言語の個体発生および系統発生の観点から論証した.保坂は,英語完了構文における助動詞選択の問題に取り組み,通時的コーパスに基づいて計量的な分析を行った結果,進化的要因としては機会的浮動より自然選択がより強く働くことを示した.太田は,協力・福井と共同で,経頭蓋電気刺激法を用いて左前頭皮質の活動を亢進・抑制させると文の理解が選択的に促進・抑制されることを明らかにした.協力・池内は,従来から構想していた「併合語彙結合仮説」と「言語早期発現仮説」をさらに精緻化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
各研究者はこれまでの自身の研究をさらに発展させ,順調に計画を推進してきている.特に本計画研究内に限らず,公募班や他の計画研究との共同研究により,当初は予定していなかった学際的な研究が多数展開されており,多くの成果をあげている.しかしながら,意図共有,ならびに階層性と意図共有の統合理解に関しては,まだ具体的な成果に乏しいと言え,次年度に向けての集中的研究課題として残る.さらに,新型コロナウィルスの蔓延に起因する諸計画の遅れ,特に予定していた国際シンポジウム等の中止や,国立民族学博物館における特別展示の開催延期等もあって,当初の計画に遅れが生じた.結果的には,国際シンポジウムに代わるオンライン形式の国際セミナーを翌年度より領域全体で全17回に渡って開催し,国内外の著名研究者による講演会を開催するなどしてこれを補うことができた.また民博特別展示は令和4年度秋に開催することができた.
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今後の研究の推進方策 |
生成文法と認知言語学の融合の試みについては,今後さらに検討を加えてその実現を図る.もし一般的組み合わせ能力からの漸進進化として併合の出現が説明可能であるなら,言語専用併合は生物進化の結果である必要はあるのか,文化進化における領域固有化の一例として捉え直すことができるのではないかという新たな疑問が生じるが,これはとりもなおさず併合のみからなる普遍文法(UG)は必要かという重大な問題提起につながる.換言すれば,UGがUGであるには併合以外に何が必要なのかということであり,これを考究することで,理論言語学内部にも斬新な視点を提供することになるだろう.また階層性と意図共有の統合的理解については,両者に共通する認知基盤として「多重注意」,つまり同時に複数の対象に注意を向け,それらを切り替えるという能力が人間において特に優れているという議論を展開中であり,その妥当性をさらに追求する. コロナ禍により延期となった民博特別展示に向けての準備は,各関係機関とも連携をとりつつ進める.また本領域と,EvolangおよびProtolangという海外2学会の合同による国際会議の準備も進めており,史上初となる3団体共同開催による大規模な国際会議の国内招致に向けて活動を展開する.
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