計画研究
本研究の目的は、言語の起源と進化について生物学的に実証可能なシナリオを描き、これにもとづき未来の言語コミュニケーションのあり方について考察することになる。そのため、生物心理学的な方法でコミュニケーション研究を進める代表者と関連する4名の分担研究者を置いている。2019年度は代表者・分担者それぞれ充実した研究体制のもとに研究を推進し、さらに班間連携による研究も進んでいる。代表である岡ノ谷は、動物の階層性認知としてメタ認知について検討し、ラットが手がかり情報の必要性に応じて自発的な情報希求行動を行うことを示した。分担者である香田は、類人猿歌の文法解析について報告し、ヒトの文生成に類似した長期依存性について見出した。さらに班間連携として、動物社会において協力行動が成立する生態学的諸条件を数理的に探り、性的競合が協力行動を進化させうる可能性について明らかにした。分担者である関は、オカメインコによる音楽模倣およびユニゾンでの発声について定量化した。また、セキセイインコが他個体の映像と発声の組み合わせからなる視・聴覚刺激の弁別は容易だが、記号化された視・聴覚の組み合わせ刺激の弁別は困難であることを示した。分担者である幕内は、言語と数学における階層構造構築の神経基盤の共通部分と相違について、fMRIを用いて中央埋め込みと左枝分かれ構造の文と計算の対比を検討した。ブローカ野背外側部は双方で中央埋め込みでより強く賦活し、計算は文処理よりブローカ野の腹外側部をより強く賦活した。また、痛みのオノマトペの理解について、痛みの情動的反応に対応する島前部と帯状回で痛みの程度に応じた賦活がオノマトペでのみ見られることを示した。分担者である和多は、キンカチョウの大脳皮質(外套)から基底核への投射神経の選択的除去を行い、皮質-基底核投射神経細胞が発声学習期に限定した神経機能を発揮することを示した。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は代表・各分担者はいずれも予定どおりに研究を進めることができており、順調に成果をあげている。各研究者は、本領域の注目する階層性と意図共有について行動から神経基盤まで様々な側面から研究を深めることができている。また、班内・班間連携研究など他分野との共同研究の計画も進んでおり、さらに大きな進展へとつながることが期待される。
2020年度では、確立された研究体制のもと、各研究者がそれぞれの研究のさらなる発展とともに、班内・班間連携研究によりより深く研究テーマを探る。代表者である岡ノ谷は、ラットの階層的記憶による自発的情報希求行動を定量的に分析可能にするためより精緻化した装置、手続きで実験を行う。また、鳥類の歌の階層性を脳に見出すため、イメージングと電気生理研究をさらに推進する。分担者である香田は、霊長類と鳥類の歌とヒトの文にみられる系列規則について比較を進め、人工歌の生成ならびに認知実験を連携研究としてすすめる。さらに、歌系列の予測および他個体行動の予測といった問題について探究を進める。分担者である関は実験を継続しており、新奇な発声系列の自発的な創発現象について定量化する。また2個体のセキセイインコの間で、他個体の発声レパートリーの選択の偏向および発声タイミングの違いを分析する。さらに、ヒトによる発声と口笛生成の心理・生理の比較から、発声によるコミュニケーションの利点を探る。分担者である幕内は階層性について、日本語の間接受け身は直接受け身より生成コストが低く、処理がより容易であるという理論的予測を、脳活動を計測し定量的に吟味する。また言語の階層性をもたらす基本的操作である併合は2項(binary)演算であると考えられているが、その証拠はまだ十分でないため、併合の神経メカニズムだとされるブローカ野の賦活量をfMRIを用いて評価する。分担者である和多は、キンカチョウのゲノムDNAにおいて、歌神経核に特異的なオープンクロマチン領域が歌神経核内のどの細胞群における遺伝子発現制御を担っているのか、また進化的に他の発声学習能をもつ動物種において、これらのゲノム領域配列が保存されているのか検証する。さらに、歌発声行動経験の有無によって発現制御を受ける遺伝子群を同定し、その神経分子機能を明らかにしていく。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 4件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 15件、 招待講演 1件) 図書 (5件) 備考 (3件) 学会・シンポジウム開催 (5件)
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