研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06380
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30211121)
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研究分担者 |
関 義正 愛知大学, 文学部, 教授 (50575123)
幕内 充 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (70334232)
香田 啓貴 京都大学, 霊長類研究所, 特定准教授 (70418763)
和多 和宏 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70451408)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 意図共有 / 階層性 / 社会階層 / 機能的MRI / 運動同調 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
鳥を対象とした研究では、セキセイインコにおいて意図共有の萌芽的行動が見られるかを検討するために、個体間での学習性の運動の同調・発声パターンの同調および鳴き交わしのタイミングを分析した。その結果、協調運動を要する課題において一部の個体が能動的に運動パターンを変え得ることが示唆された。また、視覚刺激に対する音によるラベル付け能力を検討したところ、既知個体の姿と声についてであれば、一部のトリはその組み合わせの正誤を弁別できることが示唆された。ジュウシマツの社会的意図を視線から計測する試みが成功し、鳥は注意している対象を正面から注視はせず、60度の向きから注視することがわかった。これをもとに、鳥の頭方向を弁別する訓練を行ったところ、90度を正刺激として強化、0度を負刺激として消去するほうが、その反対より学習が速かった。さえずりの種差が歌運動神経核で発現する遺伝子の種差に対応していることがわかった。 霊長類を対象とした研究では、霊長類の発声が関連する行動や、雌雄間のコミュニケーション、その適応的な意義について、新たに深層学習を中心とした機械学習による分析手法を導入し調べた。動物の歌のみならず、個体間関係の分析を、自然言語処理に用いられる手法を利用して、社会構造に出現する階層的な構造を調べることも可能となった。 ヒトを対象とした研究では、文理解と算術計算にそれぞれ要請される階層構造構築がブローカ野を賦活させることを明らかにした。さらに描画行為にも階層構造構築が関与することを行動実験で示し、その脳基盤がやはりブローカ野であることを示すための実験の準備を進めた。また意図共有の脳メカニズム解明のため意味論的処理を行う際の脳活動をfMRIで計測し、両側頭頂側頭接合領域の相補的活動を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鳥を対象とした研究では、セキセイインコを用いた研究についてはほぼ完了し、論文投稿中もしくはデータ解析を含む投稿準備中である。さえずりの種差に対応する遺伝子がどのような機能を持つのかを明らかにする準備が整っている。鳥の視線計測から社会的意図を推測できる可能性を示すことができた。 霊長類を対象とした研究では、汎用な歌分類や文法推定方法の開発を進め、動物社会の階層構造の解析、および、動画音声の記録から、発声運動を含む身体運動の解析を進めることができた。 ヒトを対象とした研究では、意味論的処理(coercion, 2種類の痛みの表現)の脳メカニズムのfMRI実験を2つ行い、それぞれ有意義な成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
総合して、以下の仮説を持つに至った。複数個体の内部状態の同調は、コミュニケーションの効率を上げ、集団の結束を高めることがわかった。それは、個体の脳内で解かれる「結び付け問題」を、複数の脳間で解くことに似ている。このように「結びついた脳」においては、注意の共有が起こり、フレーム問題を解きやすい。その一環として、階層構造の多義性を解消できるようになる。そのため、複雑化した信号の組み合わせが多様な意味を担うことができるようになる。 この仮説をもって、これまでの研究成果を位置付けし、意図共有と階層構造に基づく言語の起源の理解を推進してゆきたい。
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