研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06381
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井原 泰雄 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (90376533)
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研究分担者 |
近藤 修 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (40244347)
佐野 勝宏 早稲田大学, 高等研究所, 准教授(任期付) (60587781)
中村 美知夫 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30322647)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 人類学 / 考古学 / 霊長類学 / 進化理論 |
研究実績の概要 |
言語はヒトに人間らしさを付与する最重要要素の一つであり、その起源と進化は人類学の大きな謎である。本計画研究は、言語を特徴づける階層性と意図共有の認知基盤が、いつ(歴史的側面)、どのようにして(生態学的側面)出現したのかを、隣接分野の理論・方法を駆使した複合的アプローチにより明らかにする。 歴史的側面については、化石頭蓋から過去の人類の脳機能を推定し、階層性・意図共有の認知基盤の進化的遷移を探る研究、および考古資料の分析から組合せ道具に見られる複合的連鎖構造の理解、教示による伝達を必要とする技術の出現時期を推定するための調査・分析を進めた。特に後者に関しては、実験試料と民族資料の観察および三次元形態測定を行い、初期の単純な着柄技術から、複合的連鎖構造の理解を要する投槍器猟までの道具の変遷を明らかにするための基礎的な参照データを構築した。また、初期人類の石器製作技術の発達史に関してまとめた。 生態学的側面については、タンザニア共和国マハレ山塊国立公園でチンパンジーの野外調査を行った。マハレのチンパンジーでは、毛づくろいの際にリップスマッキングと呼ばれる行動が観察される。飼育下のマカクの研究では、リップスマッキングとヒトの発話との相同性が指摘されている。チンパンジーのリップスマッキングにおいて特筆すべき点は、無声音が付随することであるため、この音声を録音することを試みた。また、数理生物学的手法を用いて、階層性・意図共有の認知基盤の出現を駆動した淘汰メカニズムをモデル化する作業を進めた。特に、サバンナ環境に進出した初期人類において、食料資源獲得のための協調の必要性が意図共有の認知基盤の出現を促したとする、「相互依存仮説」の理論的妥当性を検討するため、拡張Stag-huntゲームの進化的解析を中心に作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歴史的側面については、化石頭蓋から過去の人類の脳機能を推定するためのデータベースの構築を進めた。また、初期人類の石器製作技術の発達史をまとめたことにより、複合的連鎖構造の理解を必要とする認知基盤が形成される以前の認知発達過程が整理された。これにより、今後言語の創発過程を理解する上で必要な連携研究の計画案が複数提起された。 生態学的側面については、野生下でもリップスマッキングの際の音声の録音・録画が可能なことが確認され、予備的な分析をおこなうことができた。また、いくつかの数理モデルの予備的解析を行った結果、拡張Stag-huntゲームが、今後の理論研究の基礎として有用であることが見出された。
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今後の研究の推進方策 |
化石頭蓋から過去の人類の脳機能を推定する研究では、今後は頭蓋形態と脳鋳型形態の左右差について、現代人の集団間、現代人と大型類人猿間で比較する。考古資料を用いた研究では、言語の階層構造の前駆体の発生時期を推定するため、複合的連鎖構造を持つ狩猟具の出現時期を解明するための調査・分析を進める。出アフリカを果たした初期ホモ・サピエンスの狩猟具の分析をおこなうと同時に、言語と道具の階層性の相関に関する理論モデルを他班と連携して構築する。また、人類の道具の発達史において、教示による伝達はどの程度複雑な道具から必要とされるのか、他班と進める実験研究によって明らかにしていく。 マハレ山塊国立公園におけるチンパンジーの野外調査については、まだ量的な分析には十分な数のデータが取れていないため、今後も継続して野外調査をおこない、データを蓄積していく。数理モデルを用いた研究については、拡張Stag-huntゲームを中心に、引き続き解析を進めていく。また、次年度からは比較認知科学の分野を強化し、類人猿に対して認知発達課題を用いる実験を開始する予定である。
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