計画研究
言語を特徴づける階層性と意図共有の認知基盤が、いつ(歴史的側面)、どのようにして(生態学的側面)出現したのかを明らかにすることを目指して研究を行った。歴史的側面については、化石頭蓋から古人類の脳機能を推定する研究を進めた。現代人とチンパンジーのCTデータを収集し、3次元形態測定法に基づく比較の枠組みを構築した。頭蓋CTデータから脳鋳型を取り出し左右差について分析する方法を改良した。現代人(日本人、ヨーロッパ人)の予備的分析から、広く知られている右前頭-左後頭ペタリアとともに、小脳部分にも左有意の形態が観察された。また、考古資料の分析から組み合わせ道具に見られる複合的連鎖構造の理解、教示による伝達を必要とする技術の出現時期を推定するための調査・分析した結果、ヨーロッパにおいてこれまで考えられているよりも2万年早く出現することをイタリアの共同研究者と解明した。また、その妥当性を検証する追加調査を進めている。生態学的側面については、タンザニア共和国マハレ山塊国立公園でチンパンジーの野外調査を行った。ヒトの発話との相同性が指摘されるリップスマッキングのデータ収集を継続した。加えて、音声や身振りを用いたチンパンジーの「挨拶」行動について分析し、口頭発表を行った。また、数理生物学的手法を用いて、階層性・意図共有の認知基盤の出現を駆動した淘汰機構をモデル化する作業を進めた。特に、B01行動生物班と共同でベニガオザルの連合形成について行った研究の成果を論文として発表し、初期人類の連合形成に関する数理モデル研究の成果を論文として投稿した。さらに、入れ子のカップ課題を用いたヒトと類人猿の比較認知発達に関する研究を行った。飼育下のチンパンジーとヒト幼児を主たる対象として縦断的に行った実験について、行為の文法の記述法を用い、階層性と効率性の発達に関してC01創発構成班と共同で再分析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
歴史的側面については、化石頭蓋から過去の人類の脳機能を推定するためのデータベースの構築を進めた。現生種データベースとしては、現代人とチンパンジーのCTデータから頭蓋と脳鋳型の相同な特徴点を抽出し、左右差について分析する手法について、およそ確立しつつある。また、化石人類への応用についても道筋が見えている。複合的連鎖構造の理解を必要とする複雑な道具の出現に関する研究成果をNature ecology & evolution誌に投稿し出版された。また、言語の創発過程を理解する上で必要な連携研究をA01言語理論班およびC01創発構成班と進めた。生態学的側面については、野生チンパンジーの毛づくろいに伴う音声のデータ収集を継続したほか、音声や身振りを伴う「挨拶」行動についての分析を行うことができた。霊長類の連合形成の基盤となっている社会的認知が、階層性・意図共有の認知基盤の前駆体となっている可能性に注目し、B01行動生物班との連携を行い、成果を論文として発表することができた。また、初期人類の連合形成に関する理論研究を論文にまとめて投稿した。Protolang 6で言語につながる階層性の進化に関する招待シンポジウムを企画し、他班からの発表者とともに本領域の研究成果を発信し、Primates誌での特集号企画につなげることができた。
化石頭蓋から過去の人類の脳機能を推定する研究では、現生種である、ヒト・チンパンジーの頭蓋、脳鋳型3Dデータベースより、左右差形態変異の分析を行い、カフゼー9号を含む化石資料へ応用する。同時に、班内、班間の共同研究として、現代人の脳部位のサイズと機能に関するデータを集めるため、言語能力に関する脳活動計測実験を行う。考古資料の分析では、中期石器時代/中期旧石器時代の組み合わせ道具とその前後段階の道具の階層構造を比較検討する。その結果を言語理論班(A01)と創発構成班(C01)と考察し、言語に見られる再帰的結合と同質の階層構造が道具製製作において出現していくプロセスを解明する。マハレ山塊国立公園におけるチンパンジーの野外調査については、現時点では新型コロナウイルスの影響で渡航ができない状況であるが、状況が改善されれば野外調査を再開し、データを蓄積していく。数理モデルを用いた研究については、3者間の連合ゲームの解析を引き続き進めるとともに、より多くの個体のグループ間の関係を考慮した数理モデルの開発を試みる。飼育下のチンパンジーおよびヒト幼児を対象とした既存の長期縦断データを記述法によりコード化し、入れ子のカップの操作における言語的な階層性について、C01創発構成班でモデル化することで解析を進める。飼育下の霊長類を対象に新たな物の操作実験を実施して、階層化の進化に関する理論モデルから得られた結果と一致するか検証する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 4件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 6件、 招待講演 12件) 図書 (1件)
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