研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
17H06383
|
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
橋本 敬 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90313709)
|
研究分担者 |
鈴木 麗璽 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (20362296)
笹原 和俊 名古屋大学, 情報学研究科, 講師 (60415172)
金野 武司 金沢工業大学, 工学部, 講師 (50537058)
竹澤 正哲 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (10583742)
萩原 良信 立命館大学, 情報理工学部, 講師 (20609416)
我妻 広明 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (60392180)
有田 隆也 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (40202759)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 階層性 / 意図共有 / 創発構成論 / 言語の起源・進化 / 文化進化 / 計算モデル / 言語進化実験 / ソーシャルデータ解析 |
研究実績の概要 |
A)階層生成と意図共有の進化 霊長類・ヒト幼児の行動と道具進化について、再帰的結合が持つ適応性(製作物と制作方法を多様化させる)の観点で検討を進めた(A01・B02と連携)。再帰に関わる脳構造を元にイメージの再帰的結合の進化・学習モデルを構築・分析した(A01・B01と連携)。複雑な形質が相互作用する個体・社会学習の進化モデルを調べ、個体の認知能力に関する遺伝的同化による安定した適応進化と、学習を伴う他個体とのコミュニケーションで生じる多様な適応形質が集団の適応性をもたらすことを示唆した。 B)相互作用を通したコミュニケーション創発プロセス 字義通りの意味・言外の意味の理解の循環構造を持つ計算モデルにより、他者の記号・行動を模倣する仕組みが意図共有を進めることを確認した。言語の構造的特徴の創発を言語進化実験で検討し、個人が繰り返し対象を記憶再生する条件よりも、個人間で情報が伝達される繰り返し学習条件のほうが、刺激系列の階層性と構造化がより強く進むことを見出した。これは構造の創発に伝達が本質的な役割を果たすことを強く示唆する。個体内での概念形成と個体間での記号コミュニケーションをマルチエージェントで共有する知識としてモデル化した確率的生成モデルと推論アルゴリズムにより、実世界で物体や状況を他者と共有しつつ記号を獲得しその知識を多体間で共有するプロセスを実現しその有効性を確かめた。 C)言語の文化進化 フェイクニュースはオンライン・コミュニケーションで過度な意図共有を促す言語であり、そうでないものと、品詞、伝聞形か否か、感情やモラル、情報拡散の社会ネットワーク構造に違いがあるという言語の文化進化の性質をSNSデータより明らかにした。英語のBE完了形からHAVE完了形へ文法規則の交替が19世紀半ばに起きたことをコーパス分析で示し、階層性進化の手がかりを得た(A01と連携)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
領域内の他の計画班および公募班との有機的結合により、当初に計画した3つの研究目的について、いずれも下記の通り計画通り順調に進んでいる。本研究の柱となる概念である、「階層性」と「意図共有」について領域内で共有できる概念定義を得ることができた。 本計画研究では、階層性については、それを生み出す能力である再帰的結合の適応性と進化条件を示し、意図共有については、ミラーニューロンシステムの役割、過度な意図共有を生み出す言語使用の特徴や社会ネットワークのダイナミクスという社会的分断に関わる要因が分かってきた。さらに、階層性の生成と意図共有を統合できる新たな実験系のデザイン、計算モデルの構築も進められた点は特筆すべきである。 また、階層性と意図共有を統合する基盤となり得る音列状況相互分節化仮説の計算モデルができたので、それをロボットに実装することで、ロボット間およびロボット・ヒト相互作用実験が可能となった。このようなロボットと人の相互作用実験や多人数コミュニケーション実験により、これまでの研究でわかってきた分断のメカニズムをコントロールする方法を探求できる。 そして、大規模ソーシャルデータを用いた定量的分析で.フェイクニュースやヘイトスピーチ等,共有過多や社会の分断を促す言語進化の特徴を分析することを計画し、実際にフェイクニュースの言語的特徴を明らかにし、図書の出版にいたった。 これらの研究を進めていくことで、本研究領域の最終目標である、共創的コミュニケーションのための提言へと繋げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
下記3項目の研究を進め、公募班・他班との連携研究も積極的に展開する。 A)階層生成と意図共有の進化の分析:再帰的操作に関わる神経回路に基づくモデルによる再帰的イメージ結合能力の進化、霊長類・ヒト幼児の再帰的結合操作の学習および道具進化を検討し、再帰性の進化プロセスを考察する。言語と言語能力の共進化モデルを言語起源に関する適応度設定で実験し進化メカニズムを検討する。音で相互作用する仮想生物集団の進化シミュレーション、霊長類の新奇動作の創発モデルを洗練する。言外の意味と字義通りの意味が解釈学的循環を起こす計算モデルにおける情報伝達メカニズムを示し、計算モデル・人間の相互作用実験により妥当性を検証する。 B)相互作用を通したコミュニケーション創発プロセスの分析:構造依存性を持つ表現の出現を観察する実験室実験を設計・実施し,構造依存性を持つ表現と解釈学的循環メカニズムとの関係性を調査する.意図共有を目的とした相互作用を通じて発生した人工言語が伝達されていく繰り返し学習を行うという,意図共有と世代間伝達を統合する新たな言語進化実験パラダイムの実験を構築・実施する.鳥類小集団における鳴き声による時空間相互作用をマイクアレイで観測し情報伝達過程や適応性を分析する.カテゴリに基づくボトムアップな記号システムの創発と記号システムの制約を受けたカテゴリの共有を可能とする記号創発の計算論モデルを拡張し,カテゴリ駆動型で記号内容を共有しているエージェントの階層的表象の獲得を分析する.意図共有の形成・遷移過程について数理モデルおよび脳・視線・動作計測実験により分析する. C)言語の文化進化の分析:フェイクニュースやヘイトスピーチの大規模データを社会ネットワーク分析で解析し、共有過多・社会的分断を促す言語の文化進化を測定する.扱う大規模コーパスを拡充し、BE・HAVE完了形の文法化と進化的交代を分析する。
|