計画研究
カメの進化において生じた筋-骨格結合関係の変化に注目した。カメでは胸筋の近位部が胸骨の外側ではなく、皮骨性腹甲の内側に付着する。組織学的検索を行ったところ、胸筋がその分化段階で真皮の内側と結合を形成し、腹甲の成長、真皮の縮退にともなって二次的に胸筋と腹甲が接することが分かった。また、腱前駆細胞に発現するScxはここには発現しない(ニワトリやマウスでは胸筋原基と胸骨原基の間にScx発現細胞が認められる)。真皮内側に結合する筋としては哺乳類において胸筋の一部から進化した皮幹筋があるが、先行研究によると、皮幹筋原基が真皮と結合する過程にFat1が関与する。カメ胚におけるFat1遺伝子の発現を解析したところ、胸筋と真皮が結合を形成する領域でFat1発現が観察され、Scx発現が欠如しFat1発現が見られる点でマウス皮幹筋の発生と類似性を持つことが判明した。さらに、舌筋原基が舌内部に入り込んで舌粘膜(真皮相当)内側と結合する際にも、Scxを発現せずFat1を発現する細胞が結合を介在しているらしいという予察的な観察結果をマウス胚から得ている。以上より、現時点では、カメの胸筋は腱前駆細胞との相互作用から解除されて真皮の内側と結合を形成するに至ったものと推測される。このことは、筋の発生機構上は筋-骨格結合の「切り離し」も進化可能であることを考慮する必要性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
カメの進化において変化の大きかった四肢筋の発生と組織構築については、予想外のデータが得られ、おおむね順調に研究を進めることができていると考える。
カメのような非モデル動物において、遺伝子の改変や、実験発生学的手法を用いることは容易ではない。また、たんなる遺伝子の機能解析に陥ることのない、進化的文脈における表現型模写実験、もしくはそれと同等の操作が以下に可能か、今後検討する必要がある。ニワトリにおける骨格原基の除去実験がいまのところ唯一可能な実験かも知れない。いずれにせよ、今後の展開は、脊椎動物の進化発生学における本質的な意義に関わることであり、概念的、方法論的な考察を含め、じっくりと取り組んでゆきたい。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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