研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
17H06388
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
深津 武馬 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 首席研究員 (00357881)
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研究分担者 |
古賀 隆一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (80356972)
重信 秀治 基礎生物学研究所, 新規モデル生物開発センター, 教授 (30399555)
細川 貴弘 九州大学, 理学研究院, 助教 (80722206)
二河 成男 放送大学, 教養学部, 教授 (70364916)
西出 雄大 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (50558096)
松浦 優 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 助教 (80723824)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 共生 / 微生物 / 昆虫 / 進化可能性 |
研究実績の概要 |
(1) 主要モデル系のチャバネアオカメムシに加え、他にも共生可能性進化実験モデルとして有用な可能性のあるカメムシ類およびその他の昆虫類について、野外採集による試料収集、実験室飼育維持手法の検討、共生細菌の単離、培養、実験操作法の開発などを行った。(2) チャバネアオカメムシの共生細菌除去幼虫を日本各地から採取した土壌試料に曝露して、細菌感染により成長できた個体をスクリーニングすることで、環境中に存在する共生可能細菌群を網羅的に探索、分離、同定した。(3) 得られた共生可能細菌系統について順次ゲノム配列決定、感染宿主カメムシの中腸共生器官のRNA-seq を行い、細菌側と宿主側の双方について高発現する遺伝子群や共生能力に関わる可能性のある遺伝子群を同定し、特に高発現しているものや興味深い機能を有することが期待されるものについて機能解析を実施した。(4) チャバネアオカメムシ地域個体群と難培養共生細菌、培養可能共生細菌、潜在的共生細菌の共進化、感染適合性、感染能比較などの解析を推進した。(5) チャバネアオカメムシその他のカメムシ類の難培養共生細菌、培養可能共生細菌、潜在的共生細菌について、培養性、資化能力、細胞形態、運動性などの比較解析を推進し、共生進化レベルとの相関解析を実施した。(6) 異なるレベルの共生能力を示すさまざまな難培養共生細菌、培養可能共生細菌、潜在的共生細菌を共生細菌除去幼虫に感染させて、感染密度、局在、垂直感染率、宿主共生器官の形態や大きさなどの表現型効果を定量的に評価した。(7) チャバネアオカメムシ本土集団の難培養共生細菌Aと、チャバネアオカメムシ沖縄集団の難培養共生細菌Bの間で、共生細菌除去、移植、交換等の実験を実施することにより、宿主―共生細菌間の共進化および特異性の機構解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の共生研究はすでに高度に確立された共生関係を対象としてきたが、近年の研究により環境中に特定の宿主生物(例えば半翅目昆虫のカメムシ類など)に潜在的な共生能力を有する自由生活性細菌が普遍的に存在することがわかってきた。本計画研究では、このような「潜在的共生細菌」の全貌を把握するとともに、既知の「必須共生細菌」や「任意共生細菌」と比較解析することにより、共生進化の条件や可能性、さらに共生進化を促進する要因や制約する機構をさぐり、共生進化ダイナミクスの本質的な理解をめざしている。本年度は、共生可能細菌系統について順次ゲノム配列決定、感染宿主カメムシの中腸共生器官のRNA-seq を行い、細菌側と宿主側の双方について高発現する遺伝子群や共生能力に関わる可能性のある遺伝子群を同定し、特に高発現しているものや興味深い機能を有することが期待されるものについて機能解析が進捗していること、宿主昆虫の地域個体群と難培養共生細菌、培養可能共生細菌、潜在的共生細菌の共進化、感染適合性、感染能比較などの解析が進展していること、異なるレベルの共生能力を示す難培養共生細菌、培養可能共生細菌、潜在的共生細菌について、宿主に対する感染密度、局在、垂直感染率、共生器官形態などの表現型効果の評価が進んでいることなどから、研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度ということで、成果を順次取りまとめ、論文発表を目指す。具体的には (1) チャバネアオカメムシその他のカメムシ類で同定された培養可能共生細菌について、比較ゲノム、野外宿主集団における分布と多様性、自然環境中における分布、存在様式、多様性、宿主との共進化、共生細菌間の相互作用、宿主への適応度効果、機能解析、共生、感染、伝達の生理機構、分子機構、自然環境中における進化生態ダイナミクスなどについて解明した研究成果を論文化する; (2) チャバネアオカメムシその他のカメムシ類において同定された環境中の潜在的共生細菌群について、比較ゲノム、多種宿主集団における分布と多様性、自然環境中における分布、存在様式、多様性、共存細菌間の相互作用、多種昆虫への適応度効果、機能解析、共生、感染、伝達の生理機構、分子機構、自然環境中における進化生態ダイナミクスなどについて解明した研究成果を取りまとめて論文化する; (3) これら様々な進化段階にある難培養共生細菌、培養可能共生細菌、潜在的共生細菌を感染させた宿主昆虫について、感染密度、局在、垂直感染率、宿主共生器官の形態や大きさなどの表現型効果を定量的に評価して、それら定量値の平均、分散、揺らぎについて統計的に検討し、共生能力との相関解析を行った研究成果をとりまとめて論文化する; (4) チャバネアオカメムシ本土集団の難培養共生細菌Aと、チャバネアオカメムシ沖縄集団の難培養共生細菌Bの間における宿主―共生細菌間の特異性に関わる共生細菌側の遺伝子、宿主昆虫側の遺伝子をそれぞれ同定した研究成果を取りまとめて論文化する。
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