研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
17H06389
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
古澤 力 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (00372631)
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研究分担者 |
若本 祐一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30517884)
津留 三良 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (80594506)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 進化実験 / 大腸菌 / 揺らぎ / ラボオートメーション |
研究実績の概要 |
これまでに、申請者が開発したラボオートメーションを用いた全自動の進化実験システムを用いて得られた大規模表現型・遺伝子型データを解析することにより、様々に異なる選択圧の下で得られた大腸菌進化株であるにもかかわらず、遺伝子発現プロファイルや耐性プロファイルといった表現型は少数のパターンに拘束されていることが見出された。また、ある一つの薬剤を添加した環境での大腸菌進化実験の過程において、同時に他の複数の薬剤に対する耐性能を定量することにより、高次元の耐性能空間における軌跡として進化ダイナミクスを記述することが出来る。そこで、8次元の耐性能空間において、異なる初期条件から始めた進化実験の軌跡を定量し、それに基づき適応度地形の推定を行った。結果として、複数のピークを持つ適応度地形が存在することが明らかとなり、そうした複数ピークを持つ地形の遺伝的背景を同定することに成功した。 加えて、昨年度までに立ち上げた、蛍光顕微鏡とフローサイトメトリーを用いた遺伝子発現量の揺らぎの解析系を用い、遺伝子発現の揺らぎの大きさと環境変化に対する応答を定量したところ、理論から予測されるように両者の間に正の相関があることを見出した。さらに、大腸菌のプロモーター領域にランダムな変異を導入したライブラリを構築し、変異に対する発現量の頑強性を調べたところ、非必須遺伝子のプロモーター領域に比べて、人工のそれは発現量が増加しやすく、必須遺伝子のそれは発現量が低下しやすいことが分かった。この実験結果から、プロモーター領域の違いが、下流の遺伝子の発現量の進化の方向にバイアスを作り出していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、理論研究によって予測された、進化の方向性と表現型揺らぎの相関を明らかにすることにある。これまでに、多様なストレス環境下での進化実験で得られた大腸菌耐性株について、それらの表現型が少数のパターンに拘束されていることが見出されている。さらに、適応度地形の推定に成功し、その情報に基づいた進化軌跡の予測について。また、それぞれの遺伝子について、様々な環境変化を与えた場合の短い時間スケールでの変動の大きさと、様々な選択圧の下での表現型進化過程での変動の大きさに、有意な正の相関が見出されている。さらに、プロモーター領域にランダムに変異を導入した系が構築されており、変異による進化方向のバイアスが確認されている。これらの実験系により、進化過程の拘束と揺らぎの相関を探索し、さらなる理論構築に必要なデータ取得のための基盤が構築できている。予定した研究が進行しているため、全体として研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、動的に変動する環境での進化実験を用い、進化軌跡の予測を試みる。それを通じて、表現型進化がどのように拘束されているかを定量的に解析し、その拘束を表現するための理論構築を行う。加えて、遺伝子発現揺らぎの系統的な定量を進展させ、揺らぎと拘束の関係について、さらに詳細に解析する。
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