計画研究
本計画研究は、新規包括的single-cell transcriptome解析法Nx1-Seqを用い、肺線維化組織における細胞相互作用ネットワーク、そのモデル化によるネットワーク動態と動作原理の解明、及びモデルに基づく肺線維症新規予防・治療戦略の策定を目的としている。今年度は、薬剤誘導性の肺胞上皮傷害を起点として急性炎症後に一過性の線維化が進行するブレオマイシン誘導肺線維症モデルを用いて、正常、炎症早期、炎症終期(線維化期)と炎症細胞社会が変遷する過程の細胞間・分子間相互作用を解析した。正常、炎症早期、炎症終期のマウス肺から、血管内血球画分を除いた細胞懸濁液を調整し、Nx1-Seqを用いて各病態ステージにおける包括的single-cell transcriptome像を得た。検出された遺伝子のうち、細胞表面または細胞外のタンパク質をコードしている遺伝子を抽出し、既存の遺伝子相互作用ネットワーク推定アルゴリズム、および分子間相互作用データベースを用いて、各レセプター/リガンド間相互作用ネットワークを構築した。構築されたネットワークと各1細胞のレセプター/リガンド発現量に基づき、各細胞同士の結びつきを同定し、細胞間相互作用ネットワークを再構築した。ネットワーク内において、結びつきが強い細胞で構成されるサブネットワークを同定した。炎症早期には、TGFb1, Pdgfa, Spp1, Ccl2, Col1a2等の線維化や炎症においてHubな役割を果たす分子を中心に構成される11個のサブネットワークを認め、一方炎症終期にはこれらのサブネットワークが5つに収束していた。細胞間相互作用ネットワーク解析により、線維化疾患の進行過程における炎症細胞社会の変遷を示すパイオニア的研究成果と考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
独自の包括的single-cell transcriptome解析法Nx1-Seqを用い、正常および炎症肺を構成する単細胞の遺伝子発現を高感度に解析出来た。得られたデータはフローサイトメトリーのデータと相関性の高いものであり、またクラスター解析や細胞系譜解析などにより細胞社会の変遷も明らかに出来た。加えて、独自の細胞間相互作用ネットワーク解析により、線維化疾患の進行過程における炎症細胞社会の変遷も明らかに出来た。
今回見出された炎症細胞社会クラスターのヒエラルキーを解明し、炎症細胞社会の動的モデル化を目指す。すなわち分子のシグナル経路のように、どの炎症細胞社会クラスターが肺線維化カスケードにおいて「上流」あるいは「下流」に位置しているのかを構成細胞の遺伝子発現上の類似性や空間的局在を元に推測する。さらに、より「上流」に位置する炎症細胞社会が現れるタイミングについて炎症細胞社会の構成細胞特異的なマーカーを探索して同定する。「上流」の炎症細胞社会のハブとなる細胞外の因子に対する、中和抗体・阻害剤への介入による、肺線維化の予防可能性を検証する。肺線維化自然発症モデル (SftpcI73T Tgマウス)を作成し、コンセプトを検証する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
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