研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
17H06392
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松島 綱治 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (50222427)
|
研究分担者 |
橋本 真一 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特任教授 (00313099)
上羽 悟史 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 准教授 (00447385)
七野 成之 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 助教 (70822435)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 免疫学 / 遺伝子 / 病理学 / モデル化 / 情報工学 |
研究実績の概要 |
肺線維症における肺の構造破壊は、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、マクロファージなど様々な細胞種の相互作用によって調節されていると考えられているが、その実態は不明なままである。我々は、組織中の数千~数万の各1細胞のトランスクリプトームを、高感度、高効率に解析可能な、新規シングルセルトランスクリプトーム法の開発に成功した(特許申請中)。本法を用い、ブレオマイシン誘導肺線維化モデルの経時的解析(day0,3,7,10)を実施し、合計20802個の細胞を解析した。その結果、ILC2や中皮細胞、plasmacytoid DCといったマイナーな細胞集団を含む、様々な細胞集団が同定された。存在頻度の多い細胞集団中におけるpseudotime analysisを用いた細胞活性化系譜の再構成により、リンパ球よりも、線維芽細胞・マクロファージ・上皮細胞・内皮細胞のほうが、ブレオマイシン傷害にともないより顕著に性質変動していることが見出された。細胞外分子―膜表面レセプター関係に基づく、線維芽細胞・マクロファージ・上皮細胞・内皮細胞間の相互作用を、シングルセルトランスクリプトームデータより再構成したところ、day7-day10にかけて結びつきの強い相互作用ネットワークの種類が増加し、TGF-betaを中心とするネットワークはday 7より現れること、そのネットワークにはVEGFもまた所属していることが明らかとなった。また、ブレオマイシン傷害の早期からそのサイズを減少させる相互作用ネットワークとしてDcnを中心とした線維芽細胞ネットワークがあることを見出し、実際にDcnを過剰発現させた線維芽細胞の予防的投与により、ブレオマイシン誘導肺線維症が抑制されることが見出された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度は、新規技術開発に伴う、本計画研究のシングルセルトランスクリプトーム技術の大幅な進歩があり、ブレオマイシン誘導肺線維症における極めてマイナーな細胞集団の同定に成功し、また時系列解析によりそれら細胞も含めた形での細胞間相互作用ネットワークのin silico再構性に成功した。そのなかで、既存の肺線維症治療薬ニンテダニブの標的分子と同一のネットワーク内に、線維化進展で重要な位置を占めるTGF-betaがあることがわかり、今までにない側面から治療効果のメカニズムを示唆するものであると考えている。さらに、経時的にそのサイズを小さくする細胞ネットワークの中心分子の一つとしてDcnを同定した。実際に、Dcnは一部の肺線維芽細胞で特異的に発現しており、Dcnノックインマウスにより、その空間的分布は気道および気管支周辺に限局していることが見出された。Dcnのブレオマイシン誘導肺線維症における生理的意義・および予防標的となりうる可能性を検証するため、Dcnを過剰発現させた線維芽細胞を経気道的に養子移入すると、肺線維症の進展が抑制された。このことより、Dcnを増加させることは、新たな線維化進展の予防標的たりうる可能性が示唆された。 細胞間相互作用ネットワークの検証をすすめるため、H30年度は肺細胞を用いた3次元オルガノイド系の確立を実施した。既存の線維芽細胞-上皮細胞の共培養系だけでなく、経時的な細胞間相互作用解析により、肺上皮細胞でのみスフィロイドを形成させ、継代も可能な新規培養系の確立に成功した。本培養系は、マウス細胞だけでなく、ヒトの初代培養肺上皮細胞でも可能であることも見出した。 H30年度はさらに、奈良県立医科大学との共同研究により、ヒトの線維化肺の手術検体におけるシングルセルトランスクリプトーム解析も実施し、線維化の強弱に伴う炎症細胞社会の相違の解析にも成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
H31年度は、新たに見出したDcnという肺線維症予防標的につき、それがブレオマイシン誘導肺線維症における炎症細胞社会に対する影響を、Dcn-GFP/Cre x STOP-DTRマウスを用いたりすることで、標的細胞、および個々の細胞におけるシグナルの変化の観点から細胞・分子レベルで解明する。また、マクロファージやT/B細胞欠損マウスに関してもシングルセルトランスクリプトーム解析を行い、in silicoでの細胞depletionと比較することで、炎症細胞社会変化の予測モデルを作出する。上記モデルにより予測された、鍵となる細胞間相互作用をつかさどる分子につき、その上皮細胞・線維芽細胞への影響を、H30に作出した新規3D organoid系を用いて検証する。複数の肺線維症臨床検体の、線維化の強弱や疾患背景の相違に基づく炎症細胞社会の変化を解析し、上記モデルとの共通点・差異から、低分子などで介入可能な複合的新規予防標的をさらに探索し、マウスモデルで検証する。加えて、新規肺線維症自然発症モデルとして、ヒトの家族性間質性肺炎で頻繁に認められるSFTPC点変異マウスを作出し、炎症や線維化が顕著でない、「未病」状態の細胞社会の変化を解析する。 また、同定された炎症細胞社会クラスターにつき、その病変部位における空間的配置を、蛍光in situ hybridizationやマスサイトメトリーなどにより検証し、病態進行の前線なのか否かを明らかとする。
|