研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
17H06394
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
和田 隆志 金沢大学, 医学系, 教授 (40334784)
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研究分担者 |
古市 賢吾 金沢大学, 附属病院, 准教授 (50432125)
坂井 宣彦 金沢大学, 附属病院, 助教 (60377421)
岩田 恭宜 金沢大学, 保健管理センター, 助教 (90432137)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 腎臓病 / 慢性炎症 / 感染症 / 細菌 / ゲノム / シングルセル |
研究実績の概要 |
超高齢化社会を迎えた本邦では、肺炎が死因の第3位になり、感染症対策とその病態解明は喫緊の課題である。感染症の重症度に関わる因子として、宿主の免疫状態などの宿主側因子と、菌自体の毒性などの菌体側因子が考えられる。しかしながら、細菌自身の表現型や遺伝子型ならびにそこに立脚するタンパクが、重症感染症や進行性腎障害の発症にかかわる病態に関しては、ほとんど明らかになってはいない。そこで、本研究は感染症を生じる細菌、ことに耐性菌と炎症、常在する細菌叢の撹乱とその病態、腎臓病を中心とする病気の予防、発症、進展との関連を炎症・細胞生物学から明らかとすることを目指している。我々は、これまでメチシリン黄色ブドウ球菌(MRSA) 株について、網羅的遺伝子解析をおこない、臨床病態との相関を基礎検討した。感染症発症と相関の高い上位50変異中、22変異は、細菌の接着に関わる遺伝子群の変異であった。実際、接着因子に変異を持つ株と、変異を持たない株をプレートアッセイにて比較したところ、接着能に差が認められた。また、菌体が増殖する過程で遊離し、菌体が全身に播種され感染症が進展するが、遊離した菌体数も変異の有無により変化が認められた。また、菌株をマウス腹腔内に投与したところ、菌株依存的にマウス死亡率が上昇し、腎障害との関連も判明した。現在、重症感染症をきたした個体における各臓器での病変の確認を行っている。これらのことは、菌体遺伝子が感染症の病態や腎炎に重要な役割を果たしていることを示している。今後、その機序などについて、検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、菌体を用いて、変異遺伝子の発現解析や、マウスへの投与実験を行った。前述の通り、菌体の接着に関与する遺伝子領域の変異により、接着能や、菌体の遊離能に差が認められた。菌体のマウスへの投与により、菌株依存的に生存率に差を認め、さらに腎に感染巣の波及を認めた。これら結果は、ヒト感染症で認められ、その病態を支持するものであった。遺伝子変異と感染症の病態を説明しうる、重要な知見と考えられる。また、今年度に確立したマウス感染症モデルは、次年度以降の検討でも用いる予定であり、さらに検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
腎臓を炎症の場とした、細菌のゲノム情報に基づく変異の視点でとらえた腎固有細胞や、免疫担当細胞とのクロストーク、細胞単位の炎症の記憶と遷延化などを、シングルセルトランスクリプトームの手法を用いて解析を進める。また、進行性腎障害の回復と、進展を分ける責任細胞、責任因子を、炎症細胞社会の視点で取らえることで、キーとなる細胞、分子に特化した創薬基盤や、新規バイオマーカーの創出を目指す。 また、遺伝子変異が蛋白の機能に与える影響を、培養細胞などを用いて検討する。感染の成立に寄与する接着因子に変異を持つタンパクは、接着能が高いという仮説の基、変異型と、野生型のタンパク質を精製し、コラーゲンへの接着能や、培養細胞による検討を行う。
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