研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
17H06396
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大迫 誠一郎 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (00274837)
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研究分担者 |
藤渕 航 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (60273512)
市原 学 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (90252238)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 環境応答 / 慢性炎症 / エピゲノム / 認知障害 / ミクログリア |
研究実績の概要 |
慢性炎症は化学物質等の環境因子の持続的曝露によって引き起こされる病態である。社会医学的には、環境汚染物質・産業化学物質による中枢神経系の影響が特に危惧されている。この研究班では、中枢神経系を主な対象として、各種オミクスデータを取得、「未病状態」の分子機構を解明することを目的としている。本年度はスタートアップとして以下の予備試験と報告を完了し、今後の全体計画に向けた準備を開始した。 1)親電子性物質のアクリルアミド(ACR)は神経毒性を持つ親電子性物質であるが、加熱処理した食品中に非意図的に発生することが今世紀になって発見され、食品安全上、近年再注目されている。マウスESTを用い、ACRの神経発達影響を解析したところ、濃度依存的にチロシンハイドロキシラーゼ(TH)陽性細胞の発生率を抑制するという新たな事実が解った。2)低コストメチローム解析(MSD-AFLP法)を用い、ビスフェノールA(BPA)の胎仔期曝露による大脳海馬のDNAメチル化への影響を解析し、約50000個のCpGを対象に変動するCpGの検出を試み論文化した。3)親電子性物質の標的分子としてNrf2およびAhrを介した慢性炎症の分子メカニズムを解明するため、各々の遺伝子破壊マウスの準備を開始した。平成30年度初頭には大規模毒性実験に十分な個体数を確保できる見込みである。4)統括班の包括的単一細胞トランスクリプトーム解析(Nx1-seq)、エピゲノム解析(メチローム、ChIP-seq)、プロテオーム解析に向けた、対象組織・組織処理法の検討を開始した。5)オミクスデータの統合解析に向けた高性能クラスター計算機システムを維持するため、ノードとなるサーバーを京都大学で購入、システム運用作業契約をスピンアウト会社と締結した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)アクリルアミド(ACR)は神経毒性を持つ親電子性物質であるが、加熱処理した食品中に非意図的に発生することが今世紀になって発見され、食品安全上、再注目されている。子供への影響が危惧されることから、発達過程の脆弱な神経系影響評価モデルとして、マウスES細胞の分化培養系を用い、ACRの神経発達影響を解析した。ACRは濃度依存的にドパミン神経の基盤となるチロシンハイドロキシラーゼ(TH)陽性細胞の発生率を抑制し、この機構にオーファン核内受容体Nr4A2シグナルが関与していることが示唆された。 2)化学物質のエピゲノム影響を独自の低コストメチローム解析であるMSD-AFLP法で解析する予備試験として、代表的「環境ホルモン」であるビスフェノールA(BPA)の胎仔期曝露による大脳海馬のDNAメチル化への影響を解析した。約50000個のCpGを対象にメチル化レベルを測定したが、今回使用したBPAの用量(200マイクログラム/母体重/日)では、対照群と比べて統計学的に有意な変動を示すものは全くないという結論となった。本研究は今年論文として公表される。 3)親電子性物質の標的分子としてNrf2およびAhrを介した慢性炎症の分子メカニズムを解明するため、各々遺伝子破壊マウスの準備を開始した。凍結胚からの復元は成功し、平成30年度初頭には毒性実験に十分な個体数を確保できる見込みである。 4) 統括班の包括的単一細胞トランスクリプトーム解析(Nx1-seq)、エピゲノム解析(メチローム、ChIP-seq)、プロテオーム解析に向けた、対象組織・組織処理法の検討を開始した。 5)オミクスデータの統合解析に向けた高性能クラスター計算機システムを維持するため、ノードとなるサーバーを京都大学で購入、システム運用作業契約をスピンアウト会社と締結した。
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今後の研究の推進方策 |
1)神経炎症分子メカニズム Nrf2KOマウスにACRを低用量から高用量まで、連続経口投与する。まず、病理組織学的解析により新生ニューロン、DBH抗体染色によるノルアドレナリン細胞数を測定する。脳脊髄液、血液を採取後、前頭皮質、海馬、扁桃体、小脳、脳脊髄液を凍結保存する。脳各部位からRNAおよびタンパク質を抽出し、インフラマソーム構成タンパクであるNLRP3遺伝子やカスパーゼ1およびIL1β等の発現を測定、インフラマソームの形成、その活性化を介した酸化ストレス、炎症反応の変化を解析する。2次元ディファレンスゲル電気泳動解析システムを実施後、タンパク質の発現量の解析を行う。また、炎症反応の見られた組織のDNAサンプルからNrf2とその下流(GSTs)、NLRP3とインフラマソーム関連タンパクの変動を解析する。
2)オミクス解析の実施と数理統計解析の基盤形成 中枢神経系のエピゲノム解析の精緻化に先立ち、基礎となる単一細胞レベルでのトランスクリプトームを統括班との連携で実施する。解析数には限りがあり、非投与群の野生型、AhrKOおよびNrf2KOマウスの海馬あるいは精巣を採取し、構成する細胞を分散させた後、包括的単一細胞トランスクリプトーム解析(Nx1-seq)に供する。このデータから各モデルマウスの基底レベルにおける細胞内トランスクリプトームネットワークを明らかにする。次に低コストメチローム解析(MSD-AFLP法)から取得したDNAメチル化プロファイルデータとを統合させる。これにより、古典的環境応答遺伝子(AhrおよびNrf2)欠損が脳内でもたらすエピ・トランスクリプトームネットワークの変化を統合的に記述して、次年度の化学物質による同一解析の対照群とする。
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