研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
17H06397
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小泉 昭夫 京都大学, 医学研究科, 名誉教授 (50124574)
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研究分担者 |
S Youssefian 京都大学, 医学研究科, 教授 (00210576)
原田 浩二 京都大学, 医学研究科, 准教授 (80452340)
手塚 徹 京都大学, スーパーグローバルコース医学生命系ユニット, 特定講師 (50312319)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | RNF213 / 循環器疾患 / 脳卒中 / R4810K変異 / もやもや病 / 血管閉塞性病変 |
研究実績の概要 |
心および脳血管疾患(以下循環器系疾患)は死因の上位を占め、その基盤には遺伝的要因と環境要因による攪乱が共通してみられる。本研究においては、循環器系疾患に注目し、環境変異(高シアーストレス、低酸素下、炎症)への血管内皮細胞(EC)の適応応答、引き続く血管平滑筋細胞(SMC)の脱分化および増殖の一連のプロセスを理解する。我々は、閉塞性血管病の代表的疾患としてもやもや病を検討する。もやもや病は、ウイリス動脈輪近傍動脈の閉塞を必発として、全身の動脈にも頻繁に閉塞性病変が認められる。感受性遺伝子としてRNF213を同定し、日中韓の創始者変異である R4810Kを見出し、1500万人の未病状態のキャリアーが存在することを見出した。R4810Kは浸透率が低く(1/150)、遺伝子変異単独では閉塞性病変の惹起を説明できない。そこで、R4810Kキャリアーは、炎症など環境要因の曝露により発病すると考えられる。我々は、interferonによりRNF213は発現誘導を強く受け、R4810Kの過剰発現ECあるいはヒトもやもや病患者由来のiPSECsにおいて、Angiogenesisが抑制されていることを見出した。さらに、低酸素曝露により野生型マウス個体では脳のAngiogenesisを促進させる適応応答を顕著に駆動させ、代償的に血流を確保しようとするが、R4810Kを過剰発現する個体では、ECの適応機能不全を起こし、適応応答を発動できないことを見出した。このようにRNF213は、環境要因曝露による適応応答を制御しR4810Kは応答不全により、未病から血管閉塞性病変を引き起こすと考えられる。時間経過、臓器特異性および環境要因との相互作用の分子メカニズムを解明することで、閉塞性血管病変の一般的理解につながること可能性を提起した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、平成29年度に引き続きRNF213の生理的機能の解明を行い、虚血に対する応答、免疫系における役割についての検討を行った。臨床的知見を深めるため、RNF213の肺高血圧における役割、RNF213保因者の脳血管疾患のリスクについて大規模疫学調査を行った。1.RNF213の生理的機能:RNF213は、AAA+ATPase機能を有し、同時にE3Ubiquitin ligase を有する。RNF213の自己ubiquitin化を指標に探索を行い、共役するE2としてUbc13を特定した。もやもや病の感受性遺伝子と報告されているC3997Y、P4007Rでは、E3ligase 活性が低下していることを見出だした。この一方D4013Nでは、著明な低下は認められなかった。 2.RNF213に結合するRBP (RNF213結合蛋白)の存在を認め、AAA+Domainに結合し、AAA+のDeletion で結合しないことを見出した。ATPase活性が必要なことから、高次構造がRBPとの結合に必要と考えられた。 3.RNF213の肺高血圧における役割:患者遺伝子スクリーニング、RNF213遺伝子改変マウスを用いた肺高血圧症モデル実験によりRNF213 R4810Kが肺高血圧症に重要な役割を果たすことを見出した。 4.免疫系とRNF213: 全身のRNF213遺伝子改変マウスを用いて検討し、腸間膜リンパ節での制御性T細胞の発達の制御因子の一つである可能性が示された。 5.RNF213保因者の脳血管疾患リスク:日本人46,958名(脳梗塞17,752名、対照29,206名)を対象に調べたところ、日本人の脳梗塞のうちアテローム血栓性脳梗塞のオッズ比を3.58に高めることを見出した。本多型は稀少疾患のもやもや病に限らず、頻度の高い病気アテローム血栓性脳梗塞の強力な感受性遺伝子であることを証明した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、以下の4つの課題を遂行する。 ① 免疫系の攪乱因子:RNF213は、T細胞の分化を通じて腸管免疫に影響を与えることを見出したので、患者血清を用いて、種々のウイルス感染による攪乱、患者の糞便のメタゲノム解析手法を用いてヒト腸内細菌叢の解析を行う。 ② RBPの細胞内局在とRBPのTurn over に与えるRNF213の変異の影響の検討:RBPの細胞内濃度の低下は、ECの機能不全を起こさせる。さらに、RBPは、RNF213のAAA+に結合し、RBPのubiquitin 化にAAA+は必須であることが判明した。しかし、ubiquitin化の意義、AAA+の役割は不明である。RNF213によるUbiquitin化がRBPの分解を促進させ、細胞内濃度の低下、引き続く機能不全を起こす可能性を検討する。具体的には、分子レベルでの可視化および生化学的検討を通じてAAA+欠損およびRNF213の変異の影響も包括的に理解し確認する。 ③ iPS細胞由来の血管内皮細胞および血管平滑筋細胞の包括的Single cell transcriptome:既に我々が確立しているヒト患者由来iPS細胞を用いEndothelial cell (EC)およびSMCsに分化させ、両者を共培養を行い種々の段階の血管構築を起こさせる。Single cell transcriptome を行い、「炎症性細胞社会」の視点で多様性を評価する。患者由来のECs, SMCsと非発症者由来ECs, SMCsを比較し、病態の解明を図る。 ④ もやもや病に高頻度に合併する甲状腺疾患の原因遺伝子とRNF213の相互作用の探索:もやもや病に高頻度に合併する甲状腺機能低下症を、常染色体優性遺伝形式で発症する家系を見出した。本家系の原因遺伝子を特定し、RNF213との相互作用を検討し、RNF213の分子機能の理解を深める。
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