計画研究
種々の機能性食品成分は、p15、p21、p27などのCDK阻害因子を誘導することで、がん抑制遺伝子RBタンパク質を活性化する。その結果、がん細胞の増殖が抑制されるため、がんの分子標的予防に極めて有用である。しかし、RB の活性化に付随して起こる細胞老化が生じる際に、種々のDNA損傷が併存する場合、細胞老化関連分泌現象(SASP)が誘導されるため、逆に炎症の誘発やがんの増悪につながる恐れがある。本研究では、このSASPを阻害する天然物を見出し、慢性炎症を克服する戦略及び新規予防標的分子の発見を目的としている。始めに、ヒト線維芽細胞にブレオマイシンを加えることで細胞老化を誘導し、ELISA法を用いてIL-6の大量分泌つまりSASPを検出する系を確立した。この線維芽細胞の系を用いたスクリーニングにより、天然物ライブラリーからIL-6の分泌を阻害する天然物を複数発見し、定量RT-PCR法により複数のSASP factor(IL-6、IL-8、CCL20)を測定することで、新規SASP阻害天然物を発見した。また、SASPを阻害できることが報告されていたカフェ酸メチルについて、そのSASP阻害の分子機構を解析した。ナノ磁性ビーズにカフェ酸メチルを固定化し、カフェ酸メチルに結合するヒトタンパク質を精製し、質量分析計で同定することに成功した。さらに、SASPを起こした細胞がNK細胞により攻撃・排除されることから、NK細胞を活性化する物質も探索した。転写因子T-betがNK細胞の機能成熟化に重要であることに着目し、T-bet特異的luciferase reporter細胞を創出した。このreporter細胞を用いたスクリーニングを行い、T-betを活性化する生薬エキス3種類、阻害剤2種類を見出した。また、肺組織での腫瘍監視に組織成熟型のNK細胞が重要であることを肺がん動物モデルで示した。
2: おおむね順調に進展している
ヒト線維芽細胞に細胞老化及びSASPを誘導する系を用いたスクリーニングにより、新規SASP阻害天然物を見出した。また、T-bet特異的luciferase reporter細胞を用いたスクリーニングにより、T-betを活性化しNK細胞を活性化しうる生薬エキス及び阻害剤も発見している。さらに、SASPを阻害できることが報告されていたカフェ酸メチルについて、その作用機序解明を目的として、カフェ酸メチル結合タンパク質を同定することにも成功している。
発見したSASPを阻害できる天然物が、どのような分子機構によりSASPを阻害するのか、Western blottingなどの分子生物学的手法を用いて解析する。また、結合タンパク質を同定したカフェ酸メチルについて、結合タンパク質とカフェ酸メチルとの関係を精査することでSASP阻害メカニズムを解析し、RNAi法を用いて結合タンパク質とSASPとの関係も調べる。ヒト線維芽細胞を用いた更なるスクリーニングも実施し、SASPを阻害できる新規天然物を探索する。さらに、T-betを活性化する生薬エキスからT-bet活性化に関わる活性成分の同定、ならびにT-bet活性化機序の解析を行い、NK細胞の分化・機能成熟化に対する効果を検証する。新たな化合物ライブラリーを用いたT-bet活性化物質スクリーニングも継続し、更なるヒット化合物の同定とターゲット探索を行う。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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