計画研究
「菌類が関わる共生・寄生における化学コミュニケーションの解明」のため,3つの課題を行った。1)フェアリーリングにおける植物とキノコの化学コミュニケーション: 芝生が輪状に周囲より色濃く繁茂し,後にその輪の上にキノコが発生する現象は「フェアリーリング」と呼ばれている。研究代表者らはフェアリーリング形成菌コムラサキシメジからシバ成長制御物質, AHXとICA,そしてAHXの植物体内での代謝産物AOHを発見した。その後,これら3化合物は調べた全ての植物にも内生していることを証明し,その生合成がプリン代謝における新しい経路によることを明らかにした。今年度は,植物におけるICAの新規代謝産物と代謝経路を発見した。さらに,コムラサキシメジのゲノム解析から植物との相互作用に関わる遺伝子の候補を推定した。2)マコモタケにおける化学コミュニケーション: イネ科植物マコモに黒穂菌が感染すると共生が始まり,菌糸が蔓延する部分は異常に肥大する。この肥大部分は,マコモタケと称し食されている。マコモタケは,花芽が形成されず実がならない。このことは,未知の制御物質が共生部分の肥大化と不稔を起こすと推定される。今年度は,マコモタケの全生育ステージのサンプルからRNAを抽出し,RNA-Seqを行った。さらに既に公開されているマコモタケ由来の黒穂菌のゲノム情報を利用し,全生育ステージの黒穂菌由来遺伝子の発現差解析を行った。3) 冬虫夏草における化学コミュニケーション: 冬虫夏草とは,菌が昆虫などに感染し,最終的に昆虫体内から子実体が発生するものの総称である。感染メカニズムは未だ明らかになっていない。今年度は,サナギタケ由来のレクチンの相互作用解析をBiacoreを用いて検討した。さらに本レクチンが認識する宿主(蛹)の性特異的貯蔵タンパク質(SP2)の糖鎖構造解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
3課題の全てにおいて以下のように概ね順調に進行している。1)フェアリーリングにおける植物とキノコの化学コミュニケーション: 今年度は,植物におけるICAの新規代謝産物と代謝経路を発見した(Org.Lett. 21, 7841-7845, 2019, Sci. Rep. 9, 9899, 2019.)。さらに,コムラサキシメジのゲノム解析から植物との相互作用に関わる遺伝子の候補を推定した(Sci. Rep. 9, 5888, 2019)。2)マコモタケにおける化学コミュニケーション: 今年度は,マコモタケ(マコモ-黒穂菌共存体)の全生育ステージ(7月~10月まで)のサンプルからRNAを抽出し,次世代シーケンサーを用いたRNA-Seqを行った。さらに既に公開されているマコモタケ由来の黒穂菌のゲノム情報を利用し,上記の全生育ステージの黒穂菌由来遺伝子の発現差解析を行った(投稿準備中)。3) 冬虫夏草における化学コミュニケーション: 冬虫夏草とは,菌が昆虫などに感染し,最終的に昆虫体内から子実体が発生するものの総称である。感染メカニズムは未だ明らかになっていない。今年度は,冬虫夏草(サナギタケ)由来のレクチンの相互作用解析をBiacoreを用いて検討した。さらに本レクチンが認識する宿主(蛹)の性特異的貯蔵タンパク質(SP2)の糖鎖構造解析を行うため,ペプチドN-グリカナーゼを用いた糖鎖の切り出し処理を行い,切り出し処理後のSP2タンパク質は、サナギタケレクチンに対する認識が著しく低下することを明らかにした(投稿準備中)。
昨年度に引き続き,以下の研究を行う。1)フェアリーリングにおける植物とキノコの化学コミュニケーション: FCsのさらなる推定経路を証明するために,その経路上の推定代謝産物を合成し,コムラサキシメジ,イネなどを用いてその存在の有無をLC-MS/MSによって検証する。また,FCsを処理したイネからFCsの代謝産物を単離・精製し,構造を決定し,それらの化合物の植物中での内生の有無を確認する。また,得られた生合成関連化合物の植物中での内生を確認するため,LC-MS/MSにおける分析条件を確立したため,それを用いて,各種植物の内生量を定量する。FCs関連化合物の生合成・代謝に関わる酵素を精製し,構造や諸性質を明らかにする。さらにこれらの酵素を異種発現し,その生体内での機能を明らかにする。2)マコモタケ(植物と菌との共生体)における化学コミュニケーション: 黒穂菌からの機能性物質の探索を行う。これまで得られている新規物質の絶対配置を,合成化学的手法を駆使して決定する。さらに,これらの物質のマコモの成長に関する効果を検討する。また,マコモタケ中の全生育ステージにおける黒穂菌由来遺伝子の発現差解析を行い,共生・共存が成立する過程を遺伝子レベルでの解明を試みる。3) 冬虫夏草における化学コミュニケーション: サナギタケ由来のレクチンと宿主(蛹)におけるレクチン結合物質の性特異的貯蔵タンパク質(SP2)の生体内での相互作用を詳細に検討する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (25件) (うち国際共著 6件、 査読あり 25件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (3件)
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