研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
17H06403
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 茂樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (60183951)
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研究分担者 |
高田 健太郎 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (90455353)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | カイメン / 共生微意生物 / 生産者 / 培養 |
研究実績の概要 |
本研究では2種類のカイメンを研究対象としている。1つめは、カイメンおよびその捕食者のウミウシから報告され、後にサンゴからも見いだされたトリスオキサゾールマクロライドの生産者の探索である。Mycale sp.やHalichondria sp.など異なる分類群に属するカイメンおよびサンゴに、複雑な化学構造を有する同一化合物が含まれることから、共生微生物がこれらの化合物の生産に関与することが予想されていた。2つめは、化学構造上かけ離れた数種類の化合物が含まれるカイメンTheonella swinhoei Y(TSY;内部が黄色の系統)の共生微生物'Candidatus Entotheonella spp.'に関する研究である。このカイメンからわれわれが発見したonnamide類、polytheonamide類、cyclotheonamide A、orbiculamide類などの二次代謝産物の多くは'Entotheonella'によって生産されることをPiel教授(ETH)との共同研究により明らかにした。しかし、別種のTheonella属カイメンから見いだされた'E. palauensis"の培養は困難である、との報告があることから、'Entotheonella'は難培養性と捉えられている。そこで、カイメンー共生微生物間の化学コミュニケーションにもとづいて'Entotheonella'がカイメン内で物質生産に与るとの仮定の下、本共生微生物の培養を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mycale属カイメンから微生物叢を分離し、HiseqとMinIONによるメタゲノム解析を実施したところ、5種の共生微生物の全ゲノム解析に成功するとともに、トリスオキサゾールマクロライドの一つであるmycalolideの生合成遺伝子ならびにその生産バクテリアを発見した。また、Mycale sp.の生活環の全てのステージにおいて生合成遺伝子およびバクテリアの16S rRNAを検出したことから、mycalolideを産生するバクテリアは垂直伝播により子孫へ受け継がれることを明らかにした。 TSYを解離し、密度濃度勾配遠心分離などにより'Entotheonella'を高濃度に含む画分を得た。カイメン中の未同定因子の存在下でだけ'Entotheonella'が増殖できると仮定し、カイメン中に"diffusion chamber"や中空糸膜を挿入してその中で'Entotheonella'の培養を試みた。それらの装置をTSY中で安定して維持させることが困難で、かつ、添加した'Entotheonella'の装置内での増殖は認められなかった。カイメン中という条件にこだわることなく'Entotheonella'の可培養化を試みている。寒天あるいはゲランガムを用いる固体培地ならびに液体培地による培養を試みている。培地には培養が困難といわれながら後に培養に成功した海洋バクテリアの培養に用いられた栄養源やカイメンの抽出物など、様々な条件を用いている。また、固体培地と液体培地の二相培養、軟寒天培地を用いた培養なども試みている。
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今後の研究の推進方策 |
カイメンMycaleにおける生産者においては、バクテリアの遺伝子情報は取得できているが、バクテリアそのものの取得が未達成である。その取得が第1の課題である。カイメンTheonella swinhoeiにおいては、内部が黄色のものにおいても白色のものにおいても、複数種のエントセオネラが認められ、人工培地中で増殖に成功したものはひとつもない。また、それぞれのエントセオネラと物質生産の関係も未解明である。エントセオネラの培養と、それぞれが生産する化合物の対応を明らかにする。
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