計画研究
炎症性腸疾患(クローン病や過敏性大腸炎)および肝細胞癌患者の便中細菌叢のメタゲノム解析により、1)腸内細菌のメタゲノム、メタトランスクリプトーム解析技術の向上、2)腸内細菌と腸上皮細胞のインタラクションが難治性炎症性腸疾患の発がんリスクに及ぼす影響の解明、3)免疫チェックポイント阻害薬による有害事象に及ぼす腸内細菌叢の影響を明らかにすることを目的とし、本年度は測定系の構築、臨床研究計画の立案、各参加施設の倫理委員会の承認を得て検体の収集を開始した。測定系の構築として、腸内細菌のメタゲノム解析において、16S rRNA シーケンス解析を検証し、全ゲノム解析およびメタトランスクリプトーム解析の測定系構築に着手した。一方、宿主側のプロファイルを明らかにするためのヒト遺伝子発現解析および遺伝子変異解析は既に構築済みである。臨床検体を用いた測定のため、消化器癌、炎症性腸疾患、肝細胞癌を対象とした臨床研究を立案し、「大腸癌・炎症性腸疾患に対する腸内細菌叢および病変部の遺伝子変異・遺伝子発現に関する前向き観察研究」および「肝細胞癌根治療法後における免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)の再発抑制効果検証のための多施設共同第II相試験におけるバイオマーカー探索研究」の研究計画の倫理委員会の承認を得て検体の集積を開始した。現在までに、大腸癌(10症例)、炎症性腸疾患(4症例)、肝細胞癌(16症例)が集積され、解析も開始し、研究は順調に進んでいる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、16S rRNA シーケンス解析による細菌叢の構成割合の確認、全ゲノム解析、およびメタトランスクリプトーム解析手法の構築に着手した。まずは、コントロール検体を用いて、16S rRNA シーケンス解析による測定系を検証し、集積した大腸癌および炎症性腸疾患患者の便検体を用いて細菌叢の構成割合のデータを得た。メタトランスクリプトーム解析として、細菌叢からRNAを抽出しrRNA除去により精製されたmRNAを用いてRNAシーケンシングを行った。メタトランスクリプトーム解析技術は未だ一般化されておらず、我々が解析対象とする炎症性腸疾患や肝細胞癌患者の便を用いた測定において、検体の保存条件、RNA抽出方法、ライブラリ調整方法の最適化を進めている。宿主・微生物間のインタラクションと病態との関連性についての解析および免疫チェックポイント阻害薬による有害事象に及ぼす腸内細菌叢の影響を明らかにするためには、臨床検体を用いた解析が重要である。消化器癌、炎症性腸疾患対象とした臨床研究として、和歌山県立医科大学と共同で、「大腸癌・炎症性腸疾患に対する腸内細菌叢および病変部の遺伝子変異・遺伝子発現に関する前向き観察研究」を立案、倫理委員会の承認を得て、検体の集積を開始した。現在までに、大腸癌(10症例)、炎症性腸疾患(4症例)を集積済みである。また、免疫チェックポイント阻害薬における研究として、肝細胞癌を対象とした多施設共同研究「肝細胞癌根治療法後における免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)の再発抑制効果検証のための多施設共同第II相試験におけるバイオマーカー探索研究」を計画、立案し、倫理委員会の承認を得て、16症例の登録を得ている。肝細胞癌においては、他の免疫チェックポイント阻害薬を用いたバイオマーカー研究の立案も検討中である。
宿主・微生物間のインタラクションと病態との関連性についての解析を行うためのメタゲノム解析手法、宿主側の分子プロファイルを明らかにするためのヒト遺伝子発現解析および遺伝子変異解析法の検証、構築は順調に進んでいる。また、臨床検体の収集も順調に進んでいる。本研究で収集される臨床検体は貴重なものであり、検証された測定系で解析を行う必要がある。そこで、構築した測定形を用いて、マウス炎症性腸疾患モデルおよび発癌モデルを用いた宿主・微生物間のインタラクションと病態との関連性についての検討を計画している。具体的には、炎症により形成される腫瘍の分子プロファイルおよび腫瘍形成に対する微生物・宿主微小環境との相互作用を解析し、宿主・微生物間の病態に関連するインタラクションを見出すとともに、臨床検体を用いた解析手法に展開する。次年度においては、臨床検体の収集を遅滞なく進め、同時に、宿主・微生物間の病態に関連するインタラクションを解析する手法を検証し、臨床検体を用いた解析につなげる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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